2006年12月18日

黄金郷アドベンチャー/CONTENTS

【黄金郷アドベンチャー】INDEX[完]

・・・本来なら過去世の麻依、摩衣霧が継承すべき座、光の宗主の座につき、闇に覆われてしまったその世界に光を取り戻す為に自分の魂の過去の時代且つ世界にもどり、仲間を募って異世界であるその世界へ旅立つ麻依。
心強い仲間に恵まれ麻依は進む。


●【黄金郷アドベンチャー/序章1】繋がりし鏡面世界
 +光と闇の鏡面世界

●【黄金郷アドベンチャー/序章2】魔女リュフォンヌ
 +その1・死と宝の迷宮
 +その2・精霊王の風穴
 +その3・魔女リュフォンヌ
 +その4・炎龍の宝玉
 +その5・さびた王冠
 +その6・宝石の行方
 +その7・マジ切れ?
 +その8・剣士との出会い

●【黄金郷アドベンチャー/序章3】巫女麻依
 +その1・翠玉の巫女
 +その2・時操の神獣
 +その3・別れ
 +その4・失われし前世へ
 +その6・虹の彼方へ
 +その7・突入、砲弾の嵐
 +その8・瘴気に覆われし世界

●【黄金郷アドベンチャー/本章1】仲間を求め
 +その1・邂 逅
 +その2・迷宮街区での談合
 +その3・談合決裂
 +その4・麻依と神官紫鳳
 +その5・そして街区にて
 +その6・無頼漢同士
 +その7・酒場での野球拳
 +その8・光のエナジーの受け渡し

●【黄金郷アドベンチャー/本章2】黄金郷の文献を求め
 +その1・僧院を目指して
 +その2・野  宿
 +その3・尽きる?光のエナジー
 +その4・猛き炎龍の気
 +その5・即身仏と奇跡の地底湖
 +その6・創世の聖堂
 +その7・心の迷宮
 +その8・必要不可欠な死刑執行

●【黄金郷アドベンチャー/本章3】目指せ、光の塔!
 +その1・光の塔への道
 +その2・黄金郷を目指して!

●【黄金郷アドベンチャー/終 章】エピローグ
 +エピローグ

posted by 語り部 at 10:12| 黄金郷アドベンチャー/CONTENTS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月09日

黄金郷アドベンチャー・終章/エピローグ

 「じゃ、帰省組と帰化組と、これでいいのよね。いい?変更はきかないわよ。後から帰れば良かったとか、帰ってくるんじゃなかったはダメよ?家族や恋人とよ????く相談したわね?」
「ああ。大丈夫。」
黄金郷の街も無事魔族から奪還し、街もそれなりに復興してきた頃、麻依は鬼退治のおみやげを持って元の世界へ帰参するか、この地に永住するか、どちらかにするか、全員の意見を聞きとりまとめた。
それは戦いも収まり落ち着いた今、ホームシックになっている者たちが結構見受けられたからである。
宝を持って海賊島へ凱旋したい、そう思う者がいても当然だと思った。
帰れば名声(かな?)を得られるが、ここにいれば、黄金などあちこちに転がっていて価値がない。(え?
「送り出したら異空間への出入口は完全に閉じるから、やり直しはきかないわ。しっかり考えてちょうだいね。」

それは闇の侵攻時の衝撃によりできてしまった次元のひずみであるその出入口を完全に塞ぐ前の出来事。
「カラフォグ、みんなをよろしくね。それから・・・ハチによろしく♪」
「はい、麻依さん。まかせておいてください。」
「いいか、カラフォグ、異次元航路までは、ふるさとの世界への入口までは麻衣さんが光のエナジーに乗せて送ってくれる。それまでは何事もないだろう。が、問題は元の世界へ戻ってからだ!いきなり時化かもしれん。こっちと向こうの時の流れが違うことと、麻衣さんがそれも考慮して送り出してくれることとで、オレたちが海賊島を出向した数週間後ということになるらしいからな、黄金郷の情報を奪取しようと、あの海域をうろちょろしてる他の海賊やどこかの軍艦などが待ちかまえてるかもしれん。」
自分の船を、帰省組のクルーたち、そしてその家族の命を託す部下のカラフォグにリーファ船長は念を押す。
「はい、おやっさん、それは心しておりやす!全員ここでの魔族とのあの激戦を勝ち抜いてきた者どもばかりだ。大丈夫でやす!」
「まー、そうは思ってるが、油断は禁物だ。麻衣さんの行為を無にすんじゃねーぜ?無事大親父に報告するんだぞ!」
「へいっ!」
帰参組の希望者と宝の山をを乗せ、カラフォグを船長としたその船は黄金郷の港を出発した。



「お、おやじ!!せ、船影が見えやす!あ、あれは・・あれは確か、リーファ船長の船・・」
「な、なんだって?」
元の世界、黄金郷を目指し出発した海賊島の港。
迎え出た人々と、再会を喜び、無事目的達成したことを全員で喜び合う。
「そうか・・・摩衣夢さんと一休さんのことは・・残念だったが、麻依さんは、見事光の宗主の座についたわけか・・。みんなもその地で落ち着いて元気なんだな・・。」

その夜、にぎやかに開かれている歓迎会の席を離れ、ハチは夜空を見上げながら一人酒を飲んでいた。


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黄金郷アドベンチャー・本章3/その2・黄金郷を目指して!

 「ええ?????紫鳳、そんなのないわ!私がみんなをここへ引き連れてきたのよ?最後まで一緒に行動してこそ責任が果たせるというものじゃなくって?」
「いえ、ですから巫女様、巫女様はもはや普通の巫女様でなく、この世界の光の宗主様なのでございますよ?!」
「それがどうしたのよ、なぜ私が一緒に戦っちゃいけないの?私は私!光の宗主なんて肩書きをもらおうとなんだろうと、私は私よ!どこも変わってないわ!ね、そうでしょ?紫鳳船長、リーファ船長?」
「い、いや・・それをこっちに振られても・・・・」

そこは海賊船の一室。海賊の主立ったメンバーと神官紫鳳とそして麻依がいた。
「リュフォンヌも眠っていなくてはならないほどのパワーで結界を張らなくても良くなったわ。彼らはそのリュフォンヌを中心にして町を、そして国の復興に力を注いでる。私の光のエナジーを受け取って世界各地に散った僧侶や魔導師たちは、陽の光が直接当たらない影のようなところへその浄化の為、足を運んでくれてる。
後は、私たちの目的だった黄金郷へ行くことじゃないの!光の宗主の膝元。太古から宗主を輩出してきた光の一族の街。それが今は魔族に占領されてるのよ。自分の街をこの手に取り戻しに行くんじゃない!それのどこが悪いの?」
「しかし光の宗主の座につかれた御方が下々の事にお関わりになられるのは・・・」
「紫鳳!」
神官紫鳳が全部言い終わらないうちに、麻依がテーブルを勢いよく叩いて立ち上がった。
「下々のって何?私は、そんなに偉いの?」
「はい、そうでございます。」
あらららら・・・・そこで紫鳳が口ごもることを予想していた麻依は、しれっとした顔で即答された紫鳳に肩すかしを食らわされる。
「このような下々の事に関わられ、もし万が一、光を受け止める力が弱まってしまわれたら、どうなさるのです?代が変わる毎に宗主の光のパワーが弱まった、その理由だけで、闇の宗主は一族を滅ぼすことを決意したのですよ?その闇の宗主から、あなた様のパワーなら均衡を保つことができるだろうと太鼓判をいただけたのです、いわば相反する敵の総元から認められたのですぞ?」
「ええ、そうよ♪認められなければ、私が上っていったあの光の階段の先は、天国に繋がることになっていたでしょうから。」
「ですから・・・地上での諍いに首をつっこんで怪我でもされたら・・」
「大丈夫よ。身体は鍛えてあるわ!」
「巫女様!」
「でも、私は言い出しっぺの責任を!!」
「言い出しっぺの責任っていうんなら、もう済んでるんじゃないか?」
「え?紫鳳・・・船長?」
「あんたはオレたちに夢をくれた。そして現実にここまで連れてきてくれた!黄金郷、男のロマンだ!その黄金郷を目指し、これから本格的に大暴れ!海賊の血が騒いでならねーんだ。そんな男たちの中に、どっちかというと・・・言いにくいが・・・」
紫鳳船長はリーファに後は続けろよと目配せする。
「言いにくいが・・な??に?」
「つまりだ・・宗主がいて勝ったんじゃ、オレたちの功績にゃならねーのさ。」
苦笑しながらリーファが口を添えた。
「私がいては?」
「ああ、そうだ。仮にあんたが自分が引くことを認めたとしても、オレたちの相手が闇の眷属であることから、紫鳳神官は置いていこうとするだろう?」
「え、ええ・・」
「それもオレたちとしてはよしてほしいんだ。」
「その点はご心配なく。私は巫女様をお守りするためにここにいるのですから、巫女様が引かれるのであれば、私は巫女様のおそばにつきますので。」
ドドドッ・・・・至極当たり前のように少しも躊躇せずその言葉を口にした神官紫鳳に、紫鳳船長もリーファ船長も、そして、麻依もずっこける。
「ま、まー・・とにかくだ・・・・向こうの宗主様は、向こうの世界からこっちに来た者たちがどうこうしようとどうなろうと一切関知しない、って言ったんだ。それをこっちばかり宗主がついていたんじゃ卑怯ってもんだろ?」
「だから、宗主の力は封じてって言ってるでしょ?」
「ダメだよ、麻依さん。ま、こうして話すくらいならいいが、街を占拠した魔族どもと一戦まみえるんだ。(一戦じゃすまないし)あんたが後ろ手でおとなしく戦って(?)いてくれるとは思えねぇ。まず、先陣を切ってつっこんでいくだろ?」
「あら・・分かる?」
そんなことはここにいる全員承知してるぜ、という顔で答えてからリーファは続ける。
「何かの拍子に大怪我でもされたら大変だ。闇の宗主が、均衡が保たれているからこそ世界も存続できるなんて言ったらしいが、きれい事を言ったその口もかわかねーうちに、きっとまたその勢力をこっちの世界へ送ってくるぜ?麻依さんは、こっちへの侵攻が闇の宗主の意志でなく、力のバランスが崩れたせいで宗主の意志に反し、勝手に流れ込んだと思いこんでるみたいだが・・・それこそが奴の狙いなんじゃないのか?」
「・・・でも、私には彼が悪人には見えなかったのよ。」
「それは巫女様がこの世界の闇の宗主に、あの方を重ねて見てしまったからではないですか?」
あの方が一休を指すのだと麻依にはピンときた。
「そんなこと!」
「言い切れますか?代々力を無くしていく光の宗主に代わり、自分の力と同等の光を抱けるものをこちら側の世界に据える為という口実で、光の一族全てを滅した輩ですぞ?」
「そ、それは・・・・・」
麻依は紫鳳のその指摘に反論する言葉が見つからず口ごもる。
「私はこう思います。あわよくば鏡面世界の両方をそっくり手にいれようとした。しかし、次期宗主の未来の生であるあなたが現れた。しかもその力は自分の力に匹敵する。いや、怒らせたらそれ以上かもしれない。」
うんうん!と”怒らせたら”の紫鳳神官の言葉に、紫鳳船長、リーファ船長他クルーは、頷く。
「そうなったら現状の反対になるかもしれない。」
うんうん!再びそこにいる一同は頷く。
「だから、そこで一線を・・・境界線を引いたのです。いわば、不可侵条約といったところでしょうな。」
「でも、紫鳳、あのときは階段の途中よ。私はまだ宗主じゃなかったわ。宗主の座に就く前なのよ?」
「それでも感じたのでしょう。ここであなたを亡き者にしようとしても、あなたは、その不屈の精神で必ず起死回生し、例え宗主の座についてなくても、自分こそが滅せられるかもしれないと。」
「・・・私は彼から話を聞けば聞くほど、世界の均衡を保つ為に、私の成長を見守ってくれてた(る?)と感じたけど。」
「お人がよろしいですからな、巫女様は。」
「あら、怒るときは怒るわよ。拒絶するときは拒絶するわよ!」
「まー、そうでしょうが・・・」
「なんだかひっかかる言葉ね、紫鳳?」
「ま、とにかくだ・・・」
いつまでも同じ議論が続きそうだと判断した紫鳳船長が、ごほん!と咳払いをしてから言った。
「オレたちにはオレたちのロマンもそして意地もメンツもある。オレたちはオレたちの夢をオレたちの腕で取りたいんだ!」
「・・・・私は・・仲間じゃないっていうの?」
「あ、い、いや・・麻依さん、そこで涙を浮かべないでくださいよ!」
「巫女様、暴れたいのは分かりますが、嘘泣きはやめてください。」
「・・・・・紫鳳ったら・・・・」
「麻依さん!」
「はい!」
不意に麻依の手をぐっと握りしめ、真剣なまなざしでじっと見つめる紫鳳船長につられ、麻依も真剣なまなざしを返す。
「オレたちを信用してくれ!そして光の塔の頂上から見守っていてくれ。オレたちがこぞって塔へ凱旋していくのを待っていてくれ。オレたちは必ず黄金郷を、光の一族の街を取り戻してみせる!」
「紫鳳船長・・・」
「そして、そこがオレたちの永住の地になる。浮き草だったオレたちの国だ!国興しなんざ、そうざらに体験できるもんじゃーねーぜ?しかも誰もが夢見てあこがれる黄金の国だ!」
「紫鳳船長・・・リーファ・・・」
「よし!決まったな!」
「はい。」
「紫鳳・・なぜあなたがそこで返事をするのよ?」
「強情な巫女様が口にしづらい言葉を代弁してさしあげただけです。」
「紫鳳?」
「麻依さん!紫鳳神官!ここでせっかく意見が合いそうなのに、水を差さないでくださいよ!」

あとは、そこにいた全員の笑いで部屋は埋まった。

『闇が勝(まさ)ってもまた光が勝(まさ)っても、世界は維持されぬ。闇があるから光があり、光があるからこそ闇がある。私は世界の半身に私同様の力を維持していてもらいたいのだ。』
麻依は、前戦の景気づけだと大いに笑って語り合いながら酒を酌み交わす彼らを見つつ、闇の宗主の言葉を思い出していた。
(力が弱ければまるごと飲み込むぞという意味合いも・・確かにそこにあった・・・・わね・・・・・)
麻依にはなんとなく未来の闇となった一休と光となった自分との出会いの疑似体験をしたような気がしていた。
そこには憎しみも敵対心もなかった。たぶん、お互いに。
純粋に両極の象徴としての存在として、1つの世界(鏡面世界で別れてはいるが)を成す存在として、対峙していた・・・・と、麻依は思った。
決して相容れない相手だが、片方の消滅は自分の消滅をも意味する。
(あら?ひょっとして私の力が弱かったら、私を傀儡の光の宗主にでもしようと図ってたのかしら?)
ふとそんな考えが麻依の脳裏をよぎった。
(でも、傀儡にして何がどうなるのか・・しら?)
一人苦笑しつつ、麻依は、おとなしく光の塔でみんなを待つことにした。
みんなの力を信じて。

黄金郷アドベンチャー・本章3/その1・光の塔への道

 「ファス、提案があるんだけど?」
「なんだ?」
疾走するファスの上、麻依はふと思いついたことを提案する。
「あなたの速さに光のスピードを乗せたら・・ううん、光が進むその上を駆けたらどうかしら?」
「光の?・・確かに光のスピードはこうして足で駆けるより速いが・・・そんなことができるのか?」
「分からないけど、やってみてもいいんじゃない?光のエナジー弾の上を・・・走れるかどうかは分からないけど。」
「そうだな。・・そうだ、同じ光の保護膜を纏うというのはどうだ?」
「いいかもしれないわね。じゃ、さっそくやってみるわ。まずは保護膜からね。」
「ああ。」
麻依は軽く目を閉じると頭の中にイメージする。自分の中から出たエナジーが、ファスト自分を覆う。麻依自身は必要ないとも思われたが、ファスト一体になって駆けなければ意味がない。麻依は一つの保護膜の中に自分とファスを入れた。
そして、一旦ファスは立ち止まる。
「じゃ、エナジー弾を作るわね。タイミングを間違えないでね。放出と同時にその上にうまく乗ってちょうだいね♪」
「任せておけ!満場喝采の玉乗りをしてやろう♪」
「あはは♪ファス、冗談が出るなんて余裕たっぷりね?」
「いや、これでも結構緊張してるんだぞ?」
「そう?・・・実は私も。」
「ほう、スーパー光の巫女様もそうか?」
「やーね、ファスったら。じゃ、行くわよ!」
「うむ。」
冗談っぽく笑っていたその顔をきりりと引き締め、麻依は光玉を形成しはじめる。
(もっと!もっと!最大限にまで!先はどのくらい続いているか分からないから。途中で消滅するようなことのないように!)
そして、できたら乗りやすいように上部は平たくイメージしつつ、麻依はエナジーを最大限凝縮しつつ光玉を作り上げていく。
「ファス、行くわよ!」
「おおっ!」


光のエナジー弾の上に乗ったファスと麻依は、その勢いで霧を切り裂くようにしてぐんぐんと突き進む。
そして・・・
「ファス!」
「ああ!霧で紡ぎきれてない穴が見えた!」
「ファス、ありがとう、あなたにはとっても感謝してるわ。」
「ははは。まだ結果がでてないぞ?」
「もう出てるのも一緒よ♪・・・この世界のことが無事解決したら、お礼に伺うわね。あの洞窟でよかった?」
「ああ、オレはいつもそこにいる。」
「じゃ、最後にもう一発いくわ!夢馬も必死になってトンネルを紡いでいるみたいだから。」
「そうだな、これでもかというくらいのスピードで飛び込んでやろう♪」
麻依は背後に向かって勢いよく光玉を放った。
その勢いに押され、光玉の上のファスが猛スピードで進む光玉から、前へと突き進む。ちょうどロケット発射時のときのように。(って、ロケットに比喩していいのか?この時代?・・・ま、いいか(おい!

「楽しかったぞ、また会おう、”まいむ”」
「会えて嬉しかったわ。またね、ファス♪」
出口に突入したことを確信し、消えゆくファスと麻依は、最後にテレパシーでそう言葉を交わした。
「さ??て、出たところは地獄か天国か・・・?」
何があろうと私は無事脱出する!固い決意で麻依は時空の激流の中に身を任せた。(もちろん光の保護膜はきちんと張っている)


ぱち!と麻依の目が開いた。
そこは聖堂。出た場所はそんな深刻なこともなく、普通に夢から目覚めただけで、麻依は少し拍子抜けした。(笑
が、仲間を見渡すと一様に夢の中でもがいている風だった。
「がっかりしてる場合じゃないわ。みんな、かなり深刻な状況に陥ってるみたい。」
すっと立ち上がると、円陣を作った形で眠っている仲間たちの中央に立ち、自分の中の光のエナジーを増幅させる。
(木の王のおかげで。底をつくくらいの光玉を作った後だけど、大丈夫、まだまだ・・ううん、いくらでもエナジーはわき出そうよ。希望という光のエナジーが。)
そのエナジーを仲間に照射し、光をそれぞれの夢の中へと射し入れる。
「みんな、私の声が聞こえる?光が届いてる?さー、手を伸ばして光を掴んでちょうだい!悪夢から脱出するわよ!」
麻依の希望の光のエナジーが聖堂一杯に広がっていく。


その光の中、麻依はふと前方が、自分の放った光のエナジーの白金の色より濃い黄金色の光を認め、近づいていく。
「こ・・・・・これって・・・・・」
そこにあったのは黄金に光輝く階段。
「まさか、天国への階段ってことは・・ないわよね?・・・・これは夢なんかじゃないはず。」
階段の真下まで進み、どこまでも続いていると思えるその階段の上を見上げてみた。
『マイ・ム・リュ・オーシュ・・マ・・イム・・・・それが、光の塔の階段。さあ、お上りください。宗主の座が・・あなたのお帰りを待ってます・・リュオーシュ・・・マイム・・・・』
麻依の過去生、摩衣夢の守り手であり、麻依をこの世界へ導いてくれた碧玉の声が、麻依の頭にやさしく響いた。

「巫女様?!」
「麻依?」
未だ聖堂内一杯に広がっているその光の輝きの中、目覚めた仲間たちが目の前の展開に驚き麻依に声をかけた。
麻依は後ろを振り返り、にこっと微笑み、一人で大丈夫だと視線で合図する。
そして、再び前を向くと、ゆっくりと階段を上り始めた。
黄金(こがね)色に輝く階段。が、そこからは濃縮された闇の気が下りてきていた。
「闇の宗主が階段の途中で待ってるみたい。話があるらしいわ。」
「巫女様?!」
紫鳳の悲痛な叫び声が麻依の耳に飛び込んだ。
「碧玉のテレパシーがあったから、この階段が偽物なんかではないことは確かよ。でも、そう簡単には上らせてくれないみたいね。」
「お待ち下さい、巫女様!私も一緒に!」
「あたいも!」
「私も行きます!」
「オレも同行するぞ!」
すぐにでも駆けつけてきそうな仲間を、麻依は振り返らず手で制した。
「彼が用があるのは光の宗主だけ。この階段は、私の光玉に引き寄せられてここまで延びてきたの。たぶん、登れるのは私だけ。」

まるで金縛りにでもあったように、紫鳳、伊織、イーガ、カルロスの4人の動きは止められていた。
きっと前方を見据え、階段を1歩1P歩上り始めた麻依を、4人はただ見送るしかなかった。

黄金郷アドベンチャー・本章2/その8・必要不可欠な死刑執行

 「考えが甘かったかしらね?」
「ああ・・そうかもしれん。人の思念というものは瞬間的なものだからな。次元が違うのかもしれん。走るという動作がある時点で遅れをとっているやもしれぬ。」
「そうね。」
どれほどファスの全力疾走が続いていただろう。そのあまりにものスピード故、麻依はひっしでファスの首に巻き付いていることしかできなかった。
ファスに言わせると、落っこちないだけでもたいしたもんだ、ということだが。
その間、いろいろなところを通過した。麻依の思い出ももちろんあり、過去生の思い出、そして、関わり合った人たち、今仲間が引きずり込まれているらしい夢の世界など、様々だった。
それほど幾多のの世界を駆け回ったのに、出口は一向に、紡いでいる途中の心のトンネルの先は見えなかった。

「え?ファス?・・・・」
一旦立ち止まりそんな会話をしていたときだった。ファスの姿が徐々に薄らいできた。
(いけない!ファスが目覚めようとしてるのね?)
麻依は慌てて薄らいでいくファスの背から飛び降りた。
いきなり消えて尻餅をつくには高さがあるから痛い。(笑

(麻依・・・・・見事、脱出するのだぞ・・・)
そんなテレパシーを残し、ファスは残念そうに消えていった。


「ふう・・どうしよう?またスタート地点に戻ってしまったわ。」
と、ふと麻依は、この夢に足を踏み入れたとき感じた恐怖となつかしさが入り交じった気配を感じる。
「この感覚・・・・今までいろんなところをファスと一緒に通過してきたけど、なかったわよね。恐怖と言っても絶望的じゃない。それになつかしさも含んでいる・・・つまり、出会うことを恐れてる?・・・それって・・・・・ひょっとして・・この先にいる人は・・・・」
麻依は、覚悟を決めて、ゆっくりとそのトンネルを歩いていった。


「・・・・・・」
ふと麻依は前方にぼんやりと見えてきた人影に注意を集中して目を懲らす。
「いっちゃん?・・・・」
その人影がはっきりしないうちに麻依は無意識に呟いていた。
少し足早に人影に近づくと、不意にすっと霧が晴れた。
そこはどこかの事務所のような一室のようだった。
その人物は、ドアを開けて入ってきたわけではなく不意に出現した麻依の姿を認めるた瞬間、少し驚いたような表情を見せ、そしてすぐ無表情になる。
それはほんの一瞬だけの表情の変化。普通なら気づかないほどの瞬間的なものだった。
やはり夢だと思っているのだろう。(事実夢なのだが)
麻依はそれに気づき、ふっ・・・と軽くため息にも似た小さな笑いをこぼす。
「お久しぶり・・といっても関係ないって言いそうよね?でも・・・・」
麻依はまるっきり無視され(/^^;)、自分が落ち込む前に、軽く手を上げ、光の拘束帯で一休を覆う。

しばらくそのまま一休を見つめていてから麻依は口を開いた。
「なつかしさと恐怖・・・なつかしい人に出会ってしまう恐れ、なつかしいけど拒否されてしまうのが分かってるその恐怖・・・そうよね、そんな感覚はこの出会いしかないわよね、殺し屋一休さん。」
「・・・・・」
「前世の・・・ううん、過去生の記憶は・・あるわ・・よね?」
その確信は一休の瞳から読み取れたが、一応確認してみる。
が、麻依の予想通り、自由になろうという気もない一休は、じっとその拘束された状況に甘んじ、ただ、静かな視線を麻依に送る。いや、そこに麻依を認めていないようでもあった。ただ、前方を見ている、それだけ。
そんな一休を前に、にっこりと微笑んでから麻依は話し始めた。
「そうよね、あなたは何も言わなくてもいいわ。と言わなくても言うつもりはないのよね、そうでしょ?そうやってじっと見つめてるだけ。しかも空を・・ね?でも、その瞳、殺し屋さんにしてはやさしいわね。やっぱりあなたはどちらかというと光よね?こうして光を目指しているこの私の方が闇を持ってるみたい・・・そう・・・・これも夢を紡いでいるあの夢馬の操作なのかもしれない。弱い部分が増幅されてきているのが・・・自分でも分かって恐いほどだわ。」
麻依の口調が、トーンが徐々に暗くなってきていた。
「そう・・・坂道を転がるように・・・・・・・勢いよく風船がふくらむように、私の中で・・・・」

しばしの沈黙の後、麻依の口調ははっきりと闇を含んだそれになっていた。
「いっちゃん・・・・・私がどれほど苦しんだか・・分かる?・・あなたさえいなければ、こんな苦痛を背負い込むことはなかった。私たちは特に特別な存在ではないはずよ。ごく普通の人間のはずなのに、なぜここまでしなきゃいけないの?なぜ納得もしてない、ううん、説明すら聞いていなかった私に、選択の余地も与えず課したの?『愛してる、信じてるから信じてくれ』その拘束帯が私をがんじがらめにする。そんな権利があなたにあるの?前もって話してくれていれば、少しは楽だったかもしれない。ううん、”オレは闇に下る。だからキミは光を目指してくれ。そして、光と闇の頂点に立つ者として会おう”その口からそう言ってくれさえしたら・・苦痛も苦痛じゃなくなってたわ。なにより時として何もかも放り投げて死にたくなるほどの焦燥感を感じることはなくなるわ。」
そこまで言うと、不意に麻依は口を大きく開け高らかに笑った。
「言っても無駄よね。そうあなたはいつもそう。なんでも承知しきった顔で、そうしてただ黙って受け止める。そう、たとえここで私があなたを殺しても喜んで受け止める。私の苦しみを少しでもそれで和らげられるのなら、膿をはき出させる為なら、死をも厭わない。・・・・でもね、いっちゃん、それってよけい私を追い込むのよ。知ってた?私は二人で背負いたいのにあなたは自分の方へ引き寄せようとする。かばってくれるのは、守ってくれるのは嬉しいわ。でも、あなたのは・・・あなたの場合は、傍に私がいる必要はないんじゃないかと・・・感じてしまうほど一人だけで、あれもこれもどんな困難、苦行や苦痛も乗り越えていく。そうね・・錯覚じゃなく、それが事実なのかも。私が傍にいる価値などどこにもありはしない。そうでしょ?私が受けるべき苦難もあなたは自分の方へ引き寄せて2人分背負ってしまうんですもの。そして、私などいなくてもあなたはそれを乗り越え、突き進んでいくわ。どこまでも。キミがそこにいて変わらぬ愛で待っていてくれるからどんな困難もモノとはせずに乗り越えられるんだ、は、なしにしてね。待っているのも修行のうちは、いらないわ。って、今更言ってみても始まらないわよね。自分がますます道化に思えるわ。」

自分の気持ちを静める為か?麻依はしばらく口を噤み一休をただじっと見つめていた。
「・・いっちゃん、あなたのその視線、やっぱりやさしすぎるわ。闇の陰りが少なすぎよ。今の私の光のレベルと比べるとあなたの闇レベルはなっちゃいないわね。もっとも超一流のスナイパーだって人を愛する心を持ってる人もいるから、仕方ないかもしれないわね。殺し屋くらいじゃ甘いんじゃない?私がもっと簡単に闇に染まれるところへ飛ばしてあげましょうか?夢が力も増幅してくれるみたいだから、普通ならできそうもない事もできそうよ。ね、いっちゃん、あなたがいる世界は平和すぎるわ。殺し屋くらいじゃ無理よ。・・でもないでしょうけど、いっちゃんなら必ず闇にたどり着くでしょうけど・・・でも、もっといいところがあれば、そこへ行ってもいいわよね?・・・・そうね・・・・」

目を閉じそれまでファスの背に乗って通ってきた道を麻依は心の中でトレースする。
そして、ゆっくりと目を開けると同時に不気味な笑みをこぼす。
「今一緒に夢を見てる仲間の一人が、まさに闇世界にいたの。そこが彼のふるさとらしいわ。手をさしのべたかったけど、夢の中だけじゃ本当に救ったことにはならないから、後ろ髪をひかれる気持ちで、そこを通り抜けたわ。あなたを・・その世界へ送ってあげるわね。そこはね、混沌とした暗黒の世界。強者にして狂者の世界。未来の見えない世界。そこで生きとし生きる者は、ただ目の前に見える己の命しか見えない。視野に入ったのは全て敵であり己より弱ければそれはエサになる。常に餓えに支配され、絶望に支配され、強者を恐れ弱者を襲う。それが常の世界。心安らぐ時は微塵もない、そんな世界。あ、闇へのちょうどいい足がかりになると思って喜ばないでちょうだいね。ただでは行かせてあげないわ。夢で経験してもダメだもの。本当にその世界へ行かなきゃ。」
ふふっと笑って麻依は続ける。
「その世界に転生するのよ。そう、転生。だからあなたは今ここで死ななければならないの。大丈夫よ、この夢の死は現実らしいわ。心が、つまり夢の中で魂が死ねば、それは眠っている状態の肉体の死をも意味するから、あなたはきちんと死ねるの。ということで、今までのお礼を込めて殺してあげるわね。ああ、大丈夫よ、ちゃ????んとあなたの好きな激痛のおまけをつけてあげることを忘れないから。しかも、簡単には楽にならないように、ね?・・・・って、涼しい顔ね、いっちゃん。私の毒をはき出させる為なら、激痛も厭わないって表情?・・それとも、私を突っぱねたのは、今日のこのことを予期してだったり・・する?・・闇になるために一番高率のいい世界へ飛ばしてもらえること・・・を・・予想しての、こうなることを予想しての行動だっ・・の?・・なんだかそんな気がしてきたけど・・・・」
それはまるで麻依の一人芝居のようだった。
一休は身動き一つせずじっと、ただじっとそんな麻依を見つめている。もっとも光の拘束帯の効力は続行中だから動きようはない。が、あえてそれに対抗しようともせず、一休は静かなのである。
「ほんとポーカーフェイスが上手よね。どんな激痛を与えても、あなたは涼しい顔をして受け入れる。どんなに私が罵ろうと、深い底のない澄んだ湖のような心でそれを受け止める。私のことをなんでも知っていて、私は・・・あなたが見えない。卑怯だわ、そんなの!」

「ねー、前口上長くない?殺るなら、さっさと殺っちゃえば?」
不意に麻依の背後から声が聞こえた。しかもそれは同じ麻依の声。
さすがの一休もポーカーフェイスを崩し麻依の背後に視線を飛ばし、もちろん麻依は驚いたように振り返る。
「ども??♪天然麻依でぇ??す♪」
「そ、そんな馬鹿な・・・私があなたを意識下に封じ込めてるはずよ?」
「ふふ♪確かに一時はね。あなたが特出してきたときは、自分ながら自分の闇性に驚いたから。でもね、いっちゃんに愚痴こぼしてる内に、私を押さえつけている封印の蓋の役目を担ってる憎悪が薄らいできたから。」
「薄らいできたから、って、それなら今現在この肉体を制御する意識があんたになるべきでしょ?わ、私はここに、身体を確かに制御してる・・のに?」
「うふ♪今のシチュエーションはね、現実であって現実でない部分があるから、気で身体をねりあげちゃうことも可♪それより、ほら、早く殺っちゃえば?」
「殺っちゃえば、って、あなた、光の私でしょ?」
「そうよ♪ダーク麻依ちゃん♪ほら、あなたの昔年の恨み辛みを光(闇の?)の刃に詰め込んで、思いっきり苦しませて・・といってもちっとやそっとの激痛なんかいっちゃんにとってはへでもないわよ?(ということもないだろうけど、受け止めるべきだとにっこり笑って痛いそぶりもみせずに受け入れるわ)ほら、早く!」
「だから、普通、止めるでしょ?私の方が心の闇の部分なのよ?あ、あんたは良心の方でしょ?」
「そ♪純粋に光の宗主を目指す、私は光の巫女。ほら、だから早く!だって差がありすぎるのよ、今の状態じゃ。このままだと私は闇のいっちゃんを滅ぼしてしまいかねないのよ。だから、早急にLVアップが必要よ。あの世界に行けばそれができるみたいだから、恨み辛みの分千々に切り刻んで、肉体から離れてもまだ引きずる激痛を受けさせて、霊界へ飛ばしなさい。その絶望の世界へ転生するまで死の場面を繰り返さなければならないんだから、何回目でそこを引き当てるかわからないでしょ?うだうだ文句言ってる時間が欲しいから、さっさと始末しなさいってば!」
「・・・・・・」
「大丈夫♪いっちゃんだったらその必要性も重々理解してるから、そのための苦行よ、覚悟してまな板の鯉気分でしょうから。そうね、「麻依に殺られるのなら願ったりだ。」と、もしも口が開けるのなら言うんじゃないかしら?」
にっこりと笑った麻依の表情から冗談ではないことが確かに感じられる。
「言えなくても思ってはいるでしょうね。だから、ほら、早く!私もそれを見届けて、次のステップ踏まなきゃならないんだから。」
「ま・・麻依?」
それまで一休にあれこれと一人話を聞かせていた麻依は、後からひょっこり顔を出したもう一人の自分自身の言葉が信じられず、呆然として見つめていた。

そして、一休は、本当はそっちが闇なんじゃないかと思えるほどの過激なセリフを口にする後出の麻依に、ポーカーフェイスのまま心の中でその通りだと頷く。必要ならばそうするべきだ。どれほどの苦痛が待っていようと。

しばらくあっけにとられた表情でもう一人の自分自身を麻依は棒立ちになったまま見つめていた。
そして、それは瞬時の交代だった。もう一人の麻依が消えると同時に、前からそこにいた麻依はにっこりと笑顔を一休にみせた。
「ありがとう・・と言うべきよね。私のダーク性が昇華されちゃったわ。さすがいっちゃん。全てをお見通し。で・・・・・お礼をするわね。大丈夫、ダーク麻依にはああいったけど、あれは、彼女に本当にあなたにそこまでする勇気があるのかどうか、そこまでの憎しみがあるのかどうかを自分自身に問いたださせる為だったから。私はあなたに苦痛など与えられないわ。一瞬で終わる。そして・・・・目的の世界も分かっているの。その世界への道は夢馬が作ってくれたトンネルで行けるわ。魂だけ飛べばそれでいいの。抜け殻は、そのうち停止するわ。夢から覚めずそのまま。それじゃ、物足りないって言わないでね?彼の地で肉体を受けてから・・ううん、その地で最も弱く、その中でも一番弱い生物の中にあなたを送り込んであげるから、悪夢はそれから始まるわ。夢でない悪夢がその時から始まる。彼らが隠れ住んでいるそこは、1歩歩けば肉が避け血がにじみ出るようなところ。そんな危険地帯に身を寄せることが彼らにとっては精一杯身を守ることだったの。そして同族でも荒んだその心はかばい合うことを知らないわ。殺し合いが世の常のそこで、見事這い上がって頂上に、闇王になることを・・祈ってるわね。・・・・・さようなら、いっちゃん。」
まばゆい光が麻依の全身から出、あっというまに部屋一杯になったその光が消滅すると、そこに一休の姿はなかった。

「いいのか?あの世界は闇が産まれ出でる世界だぞ?」
ファスの声に、ぼんやりと立ちつくしていた麻依ははっとして後ろを振り返った。
「ファス、また眠ってくれたの?」
「ああ。心配になったものでな。」
「必要だから、そうした。そして彼も、必要だから黙って身を任してくれた。それだけよ。」
「・・・そうか・・・・・(お主たちは、なんという道を選んだのだ?・・・まったくもって・・この二人ならやりそうな事だが・・しかし・・・・)」
言いたいことはあったが、ファスはそれを飲み込み、麻依に乗れと背を向ける。
「心の迷宮に亀裂が走りはじめている。おそらく死にかかっている者の中に他の世界の魂を送り込むなどという無茶をしたからだろう。そこからなら現実の世界に戻れるやもしれぬ。ただし、出たところがお主が一休を飛ばした闇の世界かもしれないが?」
「望むところよ!もしもそうだったら・・・・私は私の光エナジーで闇を切り、そこから出てみせるわ。」
「いいのか?そのエナジーを受け、転生したばかりの一休が消滅してしまうことも考えられるが?」
「そうしたらもう一度、適度な肉体を選んで彼の魂を送り込んでから、その世界から出るから構わないわ。結構それを期待してるかもしれないし?」
「期待・・してる?」
「少しでも闇属性があるとね、光のエナジーって耐えきれないほどの激痛を産むの。」
「・・・麻依・・・・・お主が闇に下った方がいいんじゃないか?」
「あは♪だからその反対を目指してるんじゃない♪大丈夫よ、ただ冷静に分析結果を言ってるだけよ。言葉の根底に恨みや怒りなどの感情はないわ。」
「ふむ。」
「いいから行きましょ♪みんなが心配だわ♪それに必要不可欠なことは成すされるべきなの。それは彼もよ??く分かってるわ。(死刑執行する私の方がためらってて、彼は・・・平然として成されるのを待ってる・・・・必要な過程だからそこに迷いはないわ。)」
「あ、ああ・・・」
理解しがたい感じを受けつつも、ファスは再び麻依を乗せて走り始めた。
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2006年04月08日

黄金郷アドベンチャー・本章2/その7・心の迷宮

  「え?・・・ちょっと待って・・・・私って、確か聖堂にいたわよね。伊織の横で寝たはずなのに・・・・」
麻依は周囲を見渡す。薄霧が周囲全体を覆い尽くしていたが、そこはついさっきまでの聖堂でないことは明らかだった。そして、すぐ側にいたはずの仲間たちがいない。
「って、そうよ!夢なのよ、きっと!」
ぽん!と手を叩いて麻依は苦笑する。
「場所が場所だからシリアスに考えすぎちゃったのよね。でも、例え夢だとしてもこういうときは闇雲に走り回らない方がいいのよね。視界も良くないから、慎重にいかないと。」
夢だと判断した麻依は、気楽な感覚で歩き始める。
「うーーん、これはどんな夢なのかしら?・・・鬼が出るか邪がでるか?」
そんなことを思いつつ麻依は進んだ。
壁でもあったら手探りで行こうと思った。が、どっちに向いて歩こうとも壁らしき遮るものがなさそうである。目を懲らしつつ方向を変え進んでみても、視野に入るのは、同じ薄霧に包まれた何もない空間があるだけで壁にもぶつからない。
「ともかく目が覚めるまで進めばいいのよね。特に何も起きないみたいだし。」

そうして歩いている内にだだっ広いその空間が、薄霧と濃霧に別れ、ちょうど彼女が歩いているエリアが薄霧で、それを囲んで濃霧がまるで壁のように続いていることに気づく。
「ふ????ん・・・・これって霧の薄いところを歩けって言ってるのかしら?でも、そう言われてはいそうですか、とおとなしくしてる私じゃないのよね。」
呟きながら濃霧の中へ足を踏み入れる麻依。
「え?・・・・なによ、これ?」
と同時に麻依は不服そうな呟きを発する。
それもそのはず、つい今し方濃霧がまるで壁のように立ちこめていたそこが、彼女が足を踏み入れると同時に淡い薄霧になってしまったのである。
「進む道を前に示されているようであり、そうでもない・・ってとこかしら?・・・どうしよう?どっちに行こう?」
苦笑しつつ麻依はしばし立ち止まって考える。
「そうだわ!目に見えるからそう思ってしまうのよ!ここに本当に道があるのかないのか、心で探ればいいのよ!」
麻依はその場に正座し、目をそっと閉じて精神集中してみる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そしておもむろに立ち上がると麻依は確かな足取りで進み始めた。目を閉じたまま。

「感じるわ・・・こっちから、とてもなつかしくすぐにでも飛び込んで行ってしまいたい感じを・・・そして、こっちからも、そのなつかしさが多少違う感じもするけど、行けばきっと楽しいことがあるような・・・こっちもニュアンスは違うけど・・・・」
しばらく歩いくと麻依はそこで立ち止まり自分が感じた方向を向き呟く。もちろん目は未だに閉じたままである。

「そう、そして・・・こっちは・・・・・他とかなり違う感じを受ける。なつかしさもあるけど、それより恐れ?・・・・・行くのが恐い?・・・・・そんな感じ。」
それはまるで麻依の立っている位置から四方八方に道が延びている感覚だった。
「どの道を選ぶべきかしら?それぞれが私に関係ある何かが待っているような気がする。何かが・・・そうね、まるで私の中にある思い出が具現化して道の先で待っているような感じ・・・・」
そして、麻依はその中で、その恐怖を覚えた道を選んだ。
「ほんと天の邪鬼よね、私って。でも、夢だから命に別状ないでしょうし、やっぱりなんと言っても恐いモノ見たさ?」
他人事のように自分のその行動を苦笑しつつ、麻依はその先に恐怖を感じた道をゆっくりと歩いていった。

「え?」
その道を進んでいた麻依は、ふと誰かが呼んでいるような気がして、その気が流れてきた方向を向く。
「・・・・・・声・・じゃないけど、そう、確かにあっちから?」
進もうと思った方向とは違っていたが、麻依は、せっかく呼び声があるのである。その方向へ進んでみることにした。


「なんだ、お主、盲目か?」
「え?」
しばらく歩くと、そんな言葉が不意に耳に飛び、麻依はその言葉にはじかれたように目を開ける。
「久しぶりだ。」
「え?」
「なんだ、分からぬのか?」
「いやだ・・・分からないわけないじゃない!過去生の記憶は全部持ってるのよ?」
「ははは、そうらしいな。」
相変わらずに霧の中、そこに立っていたのは八足の馬、世界最速の神馬。麻依が”舞夢”の生のとき出会い仲良くなり、”ファス”と名付けた馬である。
「どうした?なぜこんなところにいる?」
「なぜって・・・・私だって夢くらい見るわよ。でも・・懐かしいわ、ファス。こんな夢ならいくらでも大歓迎よ♪」
「夢・・だと思っているのか、舞夢・・いや、今は麻依・・だったか?」
「え?夢・・じゃないの?」
「まー、夢といえば、夢だが・・・普通の夢ではない。」
「それ・・どういうこと?」
「お主、どこにいた?」
「どこにいたって?」
「この夢を見る前だ。」
「ああ、そういう意味ね。えっと僧院の地下に深くにある聖堂よ。創世の聖堂と呼ばれてる部屋・・といっても、洞窟と一体化して、普通の部屋じゃなくなってたけど。」
「そうか。やはりな。」
ヒヒヒン♪と愉快そうにファスは一声嘶いた。
「やはりなって?」
「いや、つまりだな・・・・そこには太古から夢魔、というより神獣の夢馬が守っているエリアでな・・」
「え?・・・夢馬?」
「そうだ。許可なく侵入してきた輩を眠りに誘い、その心から弱点となる夢を紡いで、出口のない心の迷宮を創り上げ、その者をその中へ捕らえるのだ。」
「心の・・・迷宮・・・」
「そうだ。創り上げたトンネルのとある先には、甘い思い出を配置し、また他のトンネルの先には、その者が二度と経験したくない思い出を配置する。トンネルの先により異なってくるが、どちらにしろ夢に囚われてしまうことは確かだ。至福の夢を見続けるか、あるいは、これ以上ない苦渋を飲まされ続ける地獄の夢を見続けるか。」
「・・・そんな・・でも、目覚めれば・・」
「心のトンネルは際限なく紡がれる。どこまで行っても終着点はなく、そして、出口もない。来た道を戻ったつもりでも、それはもはや来た道ではなくなっている。確かなのはその者が立っている場所だけだ。1歩動けばそれは後退でなく前進を意味する。」
「私が今、そうだというの?」
ファスはゆっくりと頷いた。
「でも、大丈夫でしょ?私は一人じゃないのよ。仲間たちがいるわ。交代制で見張りをしてるんだから、交代するときには起こしてくれるわ。そうすれば、夢から覚めるわよね?」
ファスはにやっと笑ってから答えた。
「聖堂は、いわば夢馬のゆりかご。どんなに精神を鍛えた者でも、そのゆりかごからは逃げられぬ。遅かれ早かれ睡魔が襲う。交代をと仲間を起こす時もなく。」
「そんな!」
「今頃は全員眠っているのではないか?」
「そんな・・・。」
さすがに麻依も青ざめる。
「あ!でも、ファスは?私が今夢を見てファスに会っているのなら、ファスも・・夢馬の夢に?」
ひひひひん!と再び嘶いてからファスはさも楽しげに答えた。
「夢馬はお遊びが好きでな。きっと久々のおもちゃに嬉々として楽しんでいるのだろうが。」
「そんな勝手に遊ばれても困るわ!」
「ははは、そう睨むな。オレが紡いでるんじゃないぞ?」
「あ・・ごめんなさい、ファス。」
思わずファスを睨んでしまったことを麻依は赤くなって謝る。
「あいつの紡ぐ夢は特殊だ。手の中に納めた者から引き出した夢の先を、その夢の対象となる者の夢と繋ぐ。時と次元を越え心のトンネルはどこまでも延びるのだ。」
「ということは、ファスも夢を見てるのね?でも、ファスは聖堂にいるわけじゃないのね?」
「そうだ。しかし、ここにいることは現実だ。」
「そうよね・・・こうして触れられるし・・・」
そっとファスの背を撫で麻依は確認する。
「出口がないと聞かされてものんきだな。」
「あら、だって、さしあたって危険はなさそうだし・・」
にこりとした麻依にファスは表情を硬くして付け加える。
「お主はまだこうして穏やかな夢を見ているからいいが、もし、これが最悪の夢を見ていたら
、”死”もありうるのだぞ?それは、夢馬の紡ぐ心の迷宮のたった一つの出口とも言われている。」
「え?」
麻依は目を見開いて、ファスの言葉に驚く。
「待って、じゃー・・もしも、仲間の誰かが悪い夢を・・・そう、たとえば、イーガが猛り狂う炎龍の夢でも見ていたら・・・・・」
さっきまでのほほんとしていた麻依の表情が一気にこわばり青ざめる。
「心(魂)が死ぬのだ。心が死んだ肉体はほどなくその機能を停止する。」
「そんな・・・・じゃ、なんとかしてここを脱出して、みんなを起こさないと!」
「それができれば苦労はせぬ。オレがお主を気に入っていることは知っておろう?」
「え、ええ。」
「気に入る者の死を望むものなどいない。」
「でも・・出口がないのよね?このままあなたの夢のテリトリーに入って、あなたの中へ逃げ込むとかは・・・・できないの?」
「はははっ面白いことを言う。」
「そうだな・・・・理論的(理論的か?)には、オレの夢のテリトリーに逃げ込めばいいかもしれんが、夢馬が簡単にはそうはさせまい。」
「そうよねー・・・・太古から聖堂を守る神獣ですももねー・・・・」
しばし考え込む麻依。
「そうだ!」
「何かいい方法があったか?」
目を輝かせ手をぽん!と叩いた麻依をファスはやさしく見つめる。
「夢馬は、常に心のトンネルを紡いでるのよね?先へ先へと。エンドレスでその空間が完成してるんじゃないわよね?」
「ああ、そうだ。常に先は紡がれている。思い出という糸を寄り合わせてな。」
「ね、ファス、こういうのってどうかしら?」
「ん?」
ちょいちょいと耳を貸せというジェスチャーをした麻依の口元に、ファスは自分の耳を傍に寄せる。
「夢馬が紡ぐそのスピードより早く駆けて、迷宮から飛び出しちゃわない?」
「は?」
思いもしなかった麻依の提案にファスは目が点状態。
「あなた世界一俊足の馬よね?神馬とも呼ばれる馬の精霊よね?」
期待に輝く麻依の瞳は、およそ違うとファスに首を振らせることを許可しないといった感じだった。
「はははははははっ!面白い!今までそのようなこと考えついたこともなかった。よし!いいだろう!夢馬の紡ぐスピードより速く駆けてやろうじゃないか!ただし、心のトンネルが途切れたその先がどんな空間なのか責任もたんぞ?」
「ファス!」
麻依はファスの首元にしっかと抱きついて喜ぶ。
「ファスならそう言ってくれると思ったわ!」
「オレもそこまで言われて、あいつの紡ぐスピードに落ちるとは言えぬ。意地でも越えてみせる!」
「あは♪頼もしいわ、ファス!」
「念を押しておくが、その先がどんな空間なのかまでは責任を持たぬぞ?あいつの紡ぐトンネルの先の先だからな、オレの夢の中への逃避というわけにはいかん。」
「ええ・・」
こくりと頷いて麻依は答えた。
「覚悟はできてるわ!もしもそこが、人が呼吸など到底できない異空間だったら、その瞬間に光玉のバリアを張るから。」
「出た途端、オレは自分の夢に強制的に返り、つまり目覚め、そこにはお主市価以内と言うことも考えられるぞ?」
「ええ、覚悟の上よ!」
「相変わらず無鉄砲というか・・・楽しいな、麻依。あいつもそんな調子か?」
「あいつ・・ああ、いっちゃんね。・・・そうよ、二人とも相変わらずだわ♪」
「そうか、では、そうと決まったら早速実行といこう。こうやってお主と話しているのも悪くはないが、仲間が心配だろう。」
「ありがとう、ファス。」
「礼を言うのはまだ早いぞ!無事この夢から出られたら改めて言ってくれ!」
「そうするわ!」
とん!とファスの背に麻依が飛び乗る。
「いくぞ!しっかり捕まっておれよ!」
「オッケーー!」


前足を蹴り上げ、大きく一声嘶くと、ファスは猛スピードで霧状の迷宮を駆け始めた。
どこまでも続き、延び続けているかのような心のトンネルを。

2006年04月07日

黄金郷アドベンチャー・本章2/その6・創世の聖堂

 途中幾たびかの困難をクリアし、麻依たちは目的地、僧院の奥深い地下奥深くに位置する創世の聖堂へとようやくたどり着いく。(また過程一文省略ですみません?/^^;

「風化はしてるけど、でも、地下に封じられていたせいか、どことなく神聖な空気を感じる・・・。その昔、ここで世界を作る輪軸が神の手によって作られ、そして世界を2つに割る車輪が作られし神聖な場所・・・・・」

麻依は文献にあった文章を独り言のように呟きながら、洞窟の土や鍾乳石と一体化してしまった聖堂を見て歩いていた。
そこには口に上る言葉とは裏腹に、どんな小さな変化でも見落とすまいとするきつい視線がある。それは、この聖堂のどこかに奥室への仕掛け扉があるはずだからだった。

「巫女様、少しお休みをとられた方がよろしいのではないですか?一刻も早く聖堂の奥室を調べたいお気持ちはわかりますが、この部屋へ入るまでずっと闇の輩との攻防が続いていたことですし、奥は奥でまたどのようになっているか分かりませぬから。」
「そうね、扉を開けて中に入ったとたん、私たちの姿は見えてても彼らは襲いかかってこなかったわ。ということは、ここなら何者も侵入してこないということなのでしょうね。」
「麻依、キミはずうっと光のエナジーを放出し続けてきた。少し休んだ方がいい。疲れは回復の呪文でとれてもキミの中の光のエナジーの回復までは見込めないんだろう?」
カルロスが紫鳳の提案ももっともだと言うように、伊織たちにも視線でそうすることを勧めながら、自らもまた床に座り、麻依も苦笑しつつそれに倣う。

手頃な瓦礫を拾ってきて中央に火をたき、全員それを囲んで円座に座りなおす。
「だけど、奥への部屋の隠し扉、こうも周囲が洞窟の壁と一体化しちまってたんじゃ、見つけにくいねー?」
伊織が周囲を見渡しながら呟いたが、表情は困惑したそれでは決してない。彼女らにとって、このくらいの障害は障害のうちには入らない。
「まずは、隠し扉を開ける為の仕掛け・・だな。」
「うん。」
「ま、開くと同時にその通路いっぱいに敵がわんさかということも考えられるからな、巫女様にはよ??く補充しておいてもらわないと。」
「そうだよね、イーガ。」
伊織は話していたイーガから麻依に視線を移す。
「いいかい?急げば回れさ。しっかりエナジーを回復しといてくれよ。満タンにたまるまでゆっくり休むこと!いいね?!」
「もう、伊織ったら、子供じゃないんだから、そう念を押さなくても分かってるわ。」
「ダーメ!子供じゃないから言ってるんじゃないかい。麻依の口癖は、もう大丈夫、さ、行きましょ♪だもんね。それで一人で苦労してヒーヒー言ったりするんだから、ダメだよ、そんなの。」
「ヒーヒーなんて言ってないわよ!」
「ダメだね、自分では表情に出してないつもりかもしれないけど、疲労の色がオーラに出るんだって。」
「え?そ、そう?」
「そうだよな、紫鳳?あたい鈍いから最初のうちは気づかなかったけどさ?」
「ええ、そうですよ。微笑んでいらしても、オーラの色が違います。オーラの勢いとでも申しましょうか。」
「そ、そうだった?・・自分じゃ気づかなかったわ。」
苦笑する麻依に伊織は再度釘をうっておくことを忘れなかった。
「ここまで苦労を共にしてきたんだ。気づかないのは麻依だけさ。」
「あら・・・」
「バレバレだからね、しっかり休んでしっかりエナジーを回復しといてくれよ。」
「はい。じゃ、先に休ませていただくわね。」
「ああ、お休み。」
事実麻依の疲労は頂点に達していた。それは、回復の呪文では回復できない疲労。光のエナジーを練り上げる気力の疲労。少しゆったりとした休憩の必要性は、麻依こそがひしひしと感じていたのだが、ここへ入る前では到底そんな悠長な事は言ってられなかった。
伊織の横で、麻依は身体を横たえるとすぐに眠りに入った。


なぜ闇の輩が追いかけて入ってこなかったのか、それはそのエリアが神聖なる創世の聖堂だから、で片づくはずはなかった。
そこへ入る扉も頑丈であり、幾重にも封呪の印がしてあったことから麻依たちは単純にそう思ってしまっていたが、実はそんな単純な理由からではなかった。
いや、神聖だからこそというのであれば、一応理由は合っているとも言えよう。
聖堂は、太古より、夢魔によって守られていたのである。そう、そこは夢を司る聖獣のテリトリー。そこへ足を踏み入れれば、人間であれモンスターであれ、光の者であれ、闇の者であれ、何人も心の奥底に秘められていればいるほど、その秘められた事に囚われ、出口を見失うエリアでもあった。
だから、それを知る闇の輩は追いかけてはこない。たとえ闇の輩と言っても心は無ではない。無に近くても何かある。夢魔にかけらを見つけられたそれは良きにつけ悪しきにつけ増幅され夢となってその持ち主本人に襲ってくる。恐怖か狂喜か狂乱か・・・心の迷宮で道を失い二度と戻れない。それを知っているからだった。
夢魔は、獲物の心の奥底に入り込み、その者の心のトンネルをどこまでも、いくつでも、引き延していく。
それは、時として時空も世界をも越え、その先を現実と結ばせることもある。
終着点のない心のトンネル。夢と現実とが見事に織り込まれる不思議な夢。
その中である者は恐怖に駆られ、死にものぐるいで出口を求め、ある者は懐かしきその夢に喜んで身を任す。
出口はどこにもなく、たった一つあるとすれば、それは、夢を見ている者の『死』。
夢の中、心が死ねば、夢魔は、そこから思いを引き出せない。故に心のトンネルはそれ以上紡げなくなり消滅する。だが、それは、夢を見ていた者の死をも意味していた。

太古からそのときに至るまで、夢魔の紡ぎ出すその夢から死以外の方法によって脱出した者は・・・一人としていない。人間であれ、魔族であれ、およそ夢魔の手にかかった者は、すべからく命を失う。

黄金郷アドベンチャー・本章2/その5・即身仏と奇跡の地底湖

 足音だけが狭い通路に響いていた。いつしか誰しも無言で、地下への階段を下りていた。
それは建物の尖塔部分の中央にある地下から最上階までずっと続いている螺旋階段。
下へ下りるに連れ薄暗くはなってくるが、尖塔から陽の光が差し込んでいるため、その光がなんとか届く範囲までは灯りも必要ない。が、光が届かない先は、暗闇が待ち受けている。
加えて、その太陽でさえ闇の気で遮られているのが現状である。通常ならもっと下の方まで陽が淡く差し込んでいるだろうと思われる場所でも、早くも暗闇に包まれていた。
持参してきたランプを片手に下へ下へと下りていく。幸いにも、やはりといおうか、そこに敵対する魔物類はいなかった。いるといないでは大いに違ってくる。闇の中、彼らは順調に下へ下へと下りていった。

そして、階段がとぎれたところから、自然の地形を利用して作ったらしい横穴へと入る。
そこからが問題だった。力を、書を求めて訪れる者の力量が試されるエリアなのである。
山のようなトラップを越え、山のような謎を解き明かし(文章は都合がいいなー(爆)、パズルを組み合わせ、体力と知識、時として術と運、をも駆使し?、彼らはともかく先に進んだ。ただ、伊織からテレパシーで、光の宗主が同行していると聞き、安心して気が抜けたのか、イーガあるいはヨーガのものだと思われた気を感じることができなくなったのが、唯一彼らの気がかりだった。一言もそのことを口にせず、不安な表情もみせず、もくもくと歩を進めている伊織に気遣い、誰しも心の中ではひょっとすると危ない状態なのではないかと思いつつ、それを口にすることはできなかった。


(・・・即身仏・・・・)
壁際の岩の上に座り、瞑想状態のミイラを見つけ、麻依はそっと手を合わせてからその前を通り過ぎ、カルロスたちも、立ち止まることこそしなかったが、黙祷をし、その前を通り過ぎていく。
と、最後尾にいた伊織がその即身仏の前を通り過ぎたその直後だった。
カシャン!と音がし、伊織は後ろを振り返る。
(これ・・・・・)
そして、通り過ぎてきたときには確かになかったはずの数珠を、道の上に見つけて拾い上げる。
(ま・・まさか・・・・)
数珠を手にし、即身仏を見つめた伊織の顔からは、一気に血の気が引いていた。
「伊織?」
麻依が何事かとそっと声をかける。
「麻依・・・」
「なーに?」
「麻依・・・・これ・・・・この即身仏・・」
「この即身仏が?」
震える手で即身仏を指さし、伊織はゆっくりと麻依を見つめた。
「イーガだ。」
「え?まさか?」
慌てて伊織の傍に駆け寄る麻依、カルロスそして紫鳳。
「間違いないよ・・イーガだ・・・・抜け落ちてる黒髪と、それから、この数珠は、あたいがあげたんだ。宝石探しのおまけで手に入れたっていってた宝石・・・・イーガがくれたその宝石であたいが作って・・」
「だが、この即身仏は完全にミイラ化してるぞ?もう数百年たってると言ってもいい。」
カルロスの言う事ももっともだった。闇の瘴気が襲ってきたのはまだ数週間前。その前はイーガは生きていた人物なのである。
「自分の持っている力以上に全ての力を使い果たしたというところでしょうか?体力も精神力も、そして生命力も・・・己自身全てを燃焼させ、あの炎龍を捻出した・・おそらくそんなところでしょうな。」
「そんなところって・・・」
表情一つ変えず、たんたんと自分の予測を口にした紫鳳に、カルロスは今更ながら呆れていた。
「イーガ・・・」
伊織は膝の上に組まれた骨と化した両手の上に、そっと自分の手をあてる。
「イーガ・・・頑張ったんだね・・さすがだよ。・・・だけど、、だけど・・・・もう一度、生きてるあんたに会いたかった。・・・会えると思って来たのに・・・・会って一緒に・・・・闇からの解放を目指して戦いたかった。」
大粒の涙がその手の上に次々に落ちていた。
「だけど、あんたは一人戦って先に旅立ってしまったんだね。・・あたいを置いて?」
「それでもう一人はどうしたんでしょうな?」
紫鳳の言葉に、泣いていた伊織ははっとする。
「そうだ!ヨーガは?・・・・・2人はいつも一緒なんだ。近くにヨーガも?」
涙をぐいっと拭き、慌てて薄暗い洞窟を調べ始めた伊織に倣い、全員必死になって残る一人の影を探し始めた。
だが、どこにもそれらしきものはなかった。即身仏も遺骨も・・・死骸も。
「だ、大丈夫さ!ヨーガのことだから、きっと生きてるよ!だってここに入る前はテレパシーで話もできたんだから。」
「伊織・・」
無理に笑顔を作り、先に立って奥への道を歩き始めた伊織の後に麻依たちは無言で続いた。


そして・・・・・
「え?・・・ヨーガ?!ヨーガじゃないかっ!」
そこからまたずいぶん下ったところ、そこは一面地底湖となっていた。
四方八方に飛び石として利用できる岩がその湖面から顔を出していた。
その岩は、ともすると隅の方など飛び移ったときの衝撃で崩れてしまうほどもろかった。
注意深く渡っていったそこに、湖水の中に横たわっているヨーガを伊織が発見したのである。
「ヨーガさんが?どこに?」
岩は一人立っているのが精一杯の大きさの為、伊織のところまで行く事はできない。
少し離れたところから叫んだ麻依に、伊織は湖水を指さして教える。
「ここに・・・ここにいるんだよ。水の中に・・まるで・・・まるで眠ってるみたいだけど・・・」


麻依は、なるべく伊織の近くの岩まで飛び移ってくると、そこに腰を落とし、軽く握りしめた両手の人差し指のみまっすぐに立て、左手を湖水に漬け、右手を顔に当て、目を閉じ、意識を集中した。
「麻依?」
伊織を始め、カルロスと紫鳳が見守る中、麻依はそこで何が起こったか時を越えその様子を心の眼で見ていた。


「ほ・・う・・・」
しばらくしてその姿勢を崩し、麻依は、大きく呼吸を整える。
「麻依?・・・・ひょっとしてわかったのかい?何があったか・・・何がイーガとヨーガの身に起こったのか・・・・麻依?」
「ええ。」
一呼吸置いてから静かに答えた麻依の瞳は、伊織に事実を受け止める覚悟を求めていた。
その問いに黙って頷いた伊織の落ち着いた瞳を見て麻依は、大丈夫だと判断する。

「彼ら2人は・・・・・」
今見てきたことを一つ一つ改めて思い出すかのように麻依は話し始めた。
「闇の気を感じ、その払拭をしようと、内にある炎龍の気を高め放射しようとした。だけど・・その気を高めれば高める程、荒ぶったそれとなるのを恐れ、一旦は途中で止めようと思ったの。でも、闇の気は予想してたよりずっとずっと強かった。最高まで高めても、ううん、全生命力を費やして高めても、襲いかかってこようとしている闇の気には、到底立ち向かえそうもないと感じ、2人はお互いの炎龍の気を合わせることを思いついた。暴れ龍を生み出してしまうかもしれないという不安もあったけど、それでも、闇の気と戦うには、それしかないと判断したのよ。そうして・・・・・」
「そうして?」
そこで一旦口を閉じて黙ってしまった麻依を、伊織は催促する。
「結果だけ言うわね。」
悲しそうな表情を伊織に投げかけ、麻依は重い口を開いた。
「まずヨーガが自分の内にある炎龍の気を高め、それをイーガに送った。イーガはそれを受け、自分の内にある気と練り合わせ、より大きく、より純度が高く、闇を消し去り得る炎に高め、放出した。それは共に僧侶であり魔導師ではあったが、僧魔法は、イーガの方がヨーガより多少高度な域まで達していたかららしいわ。」
こくりと伊織は頷く。
「リスクは2人とも覚悟していた。でも、放出と同時に、予想しなかったことが起こったの。」
「予想・・・しなかったこと?」
伊織は心臓の鼓動が早まってくるのを感じていた。
「炎は、イーガの内から外へ放出されると同時に、術者もろとも、そして、傍にいたヨーガをも飲み込み、勢いよく燃えさかったの。」
麻依は今一度この先を聞くかどうか、伊織に目配せして念を押す。
(ここまできて聞かないわけにゃいかないだろ?大丈夫、あたいは・・・取り乱すようなことはしない。)
その心の声を読み、麻依は目で励ましてから続けた。
「イーガは・・・ヨーガの炎の気を受け、そして、自分の内の気とそれとを最高まで練り上がる為に、全ての力を使い切ってしまっていた。2人を包み込んだ炎をどうすることもできないほど、弱まってしまっていた。だから、炎が2人を包み込み、死を覚悟したその瞬間、多少なりとも精神力が残っていたヨーガは、最後の力を振り絞り、底尽きたと思えたその力を振り絞って、イーガの心を、その魂を自分の身体の中に呼び込むと同時に、ここまで飛ばしたの。」
「ヨーガが・・イーガの心を呼び込んで?ということは?」
肉体は一つだが、2人とも、2人の魂は無事なのか?と、思わず伊織は、希望をも感じ、湖水の中のヨーガの身体に視線を移した。
「ここは・・・元は氷穴だったそうよ。入口から徐々に冷気が強くなって、ここまで来るともう湖水一面氷が張ってたらしいの。」
「氷穴・・・」
「でも、そのとき全身を包んでいた炎龍の炎で、全部溶けてしまったらしいわ。」
4人は思わず周囲を見渡していた。
熱気で完全に溶けてしまったそこは氷穴だった痕跡すらない。
「しかし、巫女様、ここまで飛んだ、ではなく、飛ばしたとおっしゃいましたな?という事は・・・?」
紫鳳の言葉に、伊織は改めてそのことに気付き麻依を緊張した面持ちで見つめる。
「ええ・・・紫鳳はもう分かってるわね。呼び込んだと言ったけど、飛ばす為には、同じ肉体にいてはそれができない。つまり・・・呼び込むと同時に、ヨーガはイーガの身体に入ったの。」
「あ・・・じ、じゃー・・・あの即身仏は・・・?」
「そう、炎に包まれながらも、その熱さにもがきもせず、座を組んだまま、精神を集中させ、全霊力を込め、イーガの魂が入った自分の肉体をここまで飛ばし、炎龍の聖気を周囲一体に放出した・・・。」
「ヨーガ・・・あれは・・・ヨーガだったんだ・・・・。イーガの身体に入った、ヨー・・・ガ・・・・」
がくりと伊織はその場に手をつき、そして、その視線は、湖水の中のヨーガに注がれる。
「あ・・・で、麻依?ヨーガ・・いや、イーガは?水の中にいて大丈夫なのか?助かる・・のか?」
「ここは、再生の湖らしいの。」
「再生の?」
遙か大昔、ここは聖地だった。身体に障害を持った人や病人など、いろいろな人がここへそれを治してもらおうと巡礼してきたそうよ。でも、あるとき、それがきっかけで、つまり、ここの所領争いがきっかけで国同士の戦が始まり・・・それが終わった時、ここに来てみると、一面分厚い氷が張りつめていて、それから、聖なる恩恵を受ける事ができなくなってしまったんだそうよ。」
「人間の醜い争いが、奇跡の湖を凍らせてしまった・・・」
「ええ。」
「あなたのテレパシーに応えてくれたのは、炎龍の気の中に残っていたヨーガの心だったみたい。死んでも、なんとかして荒ぶれた炎を抑えようと炎の中に残っていたのね。」
「そ、そう・・・・ヨーガの・・・・」
炎龍を昇華してから、返事が全くなく、気も感じられないことの理由がようやく分かった。悲しい事実と共に。
「焼けただれた肉体はこの湖の奇跡の力で再生され、そして、イーガの魂は・・・深く深く眠っているわ。その眠りのおかげでおぼれることもないんだけど。」
パシャン!と麻依は湖へ足を踏み入れた。
「麻依?」
「私一人の方がいいの。みんなは岩の上にいてね。イーガは・・自分が死んだと思いこんでいる。その深すぎる眠りを覚ますには、この湖水の奇跡の力が必要だわ。」
3人を見渡し、無言の了承を受けると、麻依は湖に潜った。


「眠りの深淵にて深く眠るイーガよ、安らぎの闇のベールに包まれし魂よ、目覚めの時、来たらん。再生の陽の光受け、その重き瞼を開け光を見つめよ。暖かき光、希望のベールの中、その身を起こせ。・・・・目覚めよ、深き眠りから解き放たれよ!光を求めよ!」
「うわっ!」
「わあっ!」
「・・・・・」
ヨーガの身体が横たわっている地点を中心に、湖水が逆巻き始めた。そして、次にそれは洞窟の天井に届かんばかりに巻上がった。


そうしてその状態が何分続いただろう。
驚き、息を飲んで見つめ続ける3人の前で、その高く巻上がった湖水が少しずつ収まり、気付くと一滴の水もなくなっていたそこで、目をこすりつつ、不思議そうに周囲を見渡しているイーガとその傍でにこやかに微笑んでいる麻依の近くに、3人は駆け寄っていった。

「イーガ!」
「い、伊織・・か?・・・・ホントに、伊織?」
一体何があったのか、何がどうして今ここにいるのか、まだぼんやりとした頭で、イーガはベールがかかってはっきりしない自分の記憶を必死になって辿りつつ、そこに見知った伊織がいる事に安堵感も覚えていた。



「そうか・・・ヨーガが・・・・・これは、ヨーガの肉体なのか・・・オレは、あの時、最悪の場合を想定して、ヨーガだけは助かってくれるようにと、自分の中に炎龍の気を呼び込み自分の内の気と練り合わせたつもりなんだが・・・・」
「イーガ・・・・」
全てを伊織の口から聞き、しばし呆然としていたが、そこは迷宮百戦錬磨の僧侶魔導師イーガ。過ぎ去った事を悔やむのではなく、それを真摯に受け止め、今成すべき事をしようと決意する。悲しさの残る、だが、確固たる決意を表す笑顔を、伊織に向け、伊織もそれに応える。

「ヨーガの記憶が残っているこの肉体を、ヨーガと思い、私は生きる。ヨーガの分も。」
「そうだね。」
「ああ、そうだ、双子とは言え、食事の好みなどはなぜか正反対だったんだが、ひょっとしたら、肉体がヨーガのせいで、好みはヨーガのものかもしれないな。」
「あ・・そうだね、そうかもしれないね?」
「一つになる呪文書を探しにきて、その術書を発見する前に一つになったってこと・・・かな?」
「イーガ?」
「大丈夫だ。ヨーガはいつも私と一緒にいる。心の中でじっと耳をすませば、ヨーガは応えてくれる。」
「うんうん。」

いつまでも話し続けているイーガと伊織。
お互いを励まし合っているその2人とは少し距離を取り、しばらく3人はすっかり干上がってしまったそこで、休息をとることした。

黄金郷アドベンチャー・本章2/その4・猛き炎龍の気

「ありがとう。もう大丈夫よ。出発しましょ♪」
しばらく身体を横たえ休息を取ると、麻依はしっかりとした口調で言った。
「しかし、巫女様、尽きる程光のエナジーを放出されたのです。今しばらく休まれた方がいいのでは?」
「大丈夫よ、紫鳳。この辺り一帯はもう闇には汚染されてないんだし。」
事実、そこは明るい太陽の日差しこそなかったが、黒褐色に染まった樹木はもう見られず、どれもみずみずしい緑の葉を湛えた木々に戻っていた。そして、闇の瘴気がにじみ出、黒ずんでいた道も、元のきれいな土色を取り戻していた。

「あは♪麻依がいったん言い出したらもうダメだよ。誰がなんと言おうが一度口にしたことは引っ込めないもんね?」
伊織の言葉に苦笑するカルロスと、ため息をつく紫鳳。
今少し休ませたかったのが紫鳳の本音だが、伊織の言うとおりである。
しぶしぶ出発を承知し、一向は再び僧院を目指して歩き出した。

だが、それまでと違う。僧院までの道、幾多の魔からの襲撃があるだろうと予想していた時と異なり、まるで森の中の散策でもしているかのように、行程は順調に進んだ。
おそらく木の精霊王の指示なのだろう。からみつくように茂っていた樹木も、彼らが近づくとカーテンが開くように道を空けてくれた。
「これで陽の光さえ射してれば、木漏れ日のアーチなんだけど。」
「そうだね、でも、今は緑のアーチだけでも、なんかすがすがしいような気がするよ。」
「ホントにそうだ。樹木の緑がこんなに安らかに感じるとは思わなかった。」
「今までが今まででしたからね。」
4人はあれこれ話ながら道中を急いだ。


そして、僧院前。人々からは忘れ去られ、自然の侵食に任せたままになっているそれは、確かにあちこち崩れてはいるが、それでも、よほど頑強に作られたのだろう。塀は変わらずその役目を果たし続け、ぐるっとその高い塀に守られたその僧院の扉もまた侵入者を固く拒み、しっかりと閉じられていた。
「中からカギ・・おそらく閂だと思うが、それを抜かないことには、空きそうもないな。」
ガタガタと扉をなんとか開けようと試みていたカルロスが、そう言って3人の方を振り向く。
「そう。じゃ、私が開けるわ♪」
「は?」
「麻依?」
「巫女様?」
引き留めようとした紫鳳より行動に移した麻依の方が早かった。
近くにあった大木にするするっと登ると、ロープを使い、あっという間に塀の上へ飛び移る。
そして、唖然として見つめている3人にウィンクすると、向こう側に姿を消した。

ゴトゴトガタガタと閂を抜く音がし、大扉は軋みながら開いた。
「・・・巫女様・・・」
「え?なーに、紫鳳?あら?そんな恐い顔しないで?これくらいなら何ともないことくらい、紫鳳なら知ってるでしょ?」
「しかし、巫女様・・巫女様は今体力的にも精神的にも疲労されて・・」
「やーね、紫鳳ったら・・・そんなの歩いている内に回復しちゃったわよ。」
ふ????・・・・・・・半ばあきれかえった表情で紫鳳は特大のため息をつき、そんな紫鳳と麻依を見て、カルロスと伊織も苦笑するしかなかった。


「確かに陽の光とは違うけど、清浄な気を感じるわ。そう強くはないけど、僧院の中はちょうどその気でふんわり包まれて保護されてるって感じね?」
「そうですな。」
尖塔をいただく建物に向かって歩きながら、麻依はその気が少しずつ強くなってきていることを感じた。

そして、その中央扉に手を掛ける。
「ちょっと待っとくれ!」
背後の伊織の声が麻依の手を止めた。
「伊織?」
振り返った麻依の目に写ったのは、不安そうな伊織の顔。
「何か?」
「いや・・気のせいかもしれないけどさ・・・・あたいもしばらく炎龍の傍にいた。だから・・」
「だから?」
周囲の気を読み取るかのように口を閉ざした伊織に、麻依は聞く。
「なんだか、扉を開けると同時に襲いかかってくるような・・・?」
「え?でも・・この気はイーガさんとヨーガさんのものなのでは?」
「ああ、そうだよ。」
こくんと頷いてから、伊織は続けた。
「確かにイーガとヨーガが自分でも気づかず、炎龍から受けて吸収した気だけどさ、なんだかやばい気がする。」
「やばい・・というと?」
「うーーん・・・なんとなく感じるだけだから・・・・うまく説明できないんだ。」
「それはおそらくあれでしょう。」
麻依と伊織の話をじっと聞いていた紫鳳が静かに口を挟んだ。
「あれ・・って?」
「おそらく闇の瘴気をはね除けるため、彼らは持ちうる限りの闘気を乗せて放ったのだと思います。」
3人を一様に見回してから紫鳳は続ける。
「闇の気は強い。通常ならいくら炎龍から吸収した気だとしても、普通の人間でどうにかなるものではない。おそらく極限まで己を鼓舞し、放ったと思われます。」
「紫鳳、ひょっとしてあなたが言いたいのは、2人が放った炎龍の気は、2人の手を離れ制御不可能となってるってこと?」
「そうです。しかも、おそらくはこの建物の中で、闇を滅しようとする意識との高まりで膨張しているかもしれません。」
「膨張・・・・・もしかして、炎龍とまでいかないが、それなりの形を形成してるとでも?」
カルロスの言葉に、紫鳳は頷き、答えた。
「その可能性が高いです。入口の呪印は、世に害をなそうとするものを封じる力があります。おそらく、聖気のみ、ここからにじみ出、周囲一体に広がったのでしょう。しかし、中に封じられているモノは・・・それ故一層膨張し、そして、今、相手が闇かどうかの見境などはつかなくなっていると思われます。」
「それって、侵入者はすべからく敵とみなしてるってことかい?」
「でしょう・・ね。」


「でも・・・・入らないわけにはいかないわ。」
しばらく無言で扉を見つめていた4人だが、麻依のその言葉に反対する理由はなかった。
開けた瞬間に戦闘に入っても良いように気構え、扉を開ける。
もちろん、大丈夫だからという麻依を説得して退けさせ、その役目はカルロスが受けた。

その扉は、特別な封印がしてあった。ドアの表面に縦横4マスの木組みのパズルが備え付けてあるといえばいいだろうか。封呪の印形となっているそれを、スライドさせ解呪するのである。だが、ただスライドしてその印形を崩せばいいというものではない。解呪の印にしなくてはならなかった。
カルロスはリュフォンヌから聞いてきたとおりに、一つ一つスライドさせていく。

「これを動かせば、扉は開く。」
カルロスは、3人を今一度振り返ってから、それを動かした。
??バン!??
と、まだ扉には手をかけていないにも関わらず、封呪が解けたと同時に、荒々しい気を伴った熱風が中から飛び出、4人をそのまま巻き込む。
が・・・それは予想してのことである。4人は麻依の光玉に守られ、熱気を受けることはない。

熱風は4人をその中に巻き込んだまま、高く高く舞い上がる。まるでようやく外に出られ、自由を得て喜んでいるかのように。
そして、それは徐々に炎龍を象っていき、その透明に紅く燃えるそれは、確かに麻依たち4人を敵視していた。

身構える4人は依然として炎龍となったその炎の中に包まれていた。
「伊織!」
「任せときな!」
その中で、打ち合わせどおり、伊織は自分の意識を集中して、この敷地内のどこかにいるだろうイーガとヨーガに呼びかける。
(イーガ!ヨーガ!あたいの声が聞こえるかい?・・・もう大丈夫だ!光の巫女が来てるんだ!だから、炎龍を・・炎龍の気を静めておくれよ!イーガ!ヨーガ!あたいが分かるだろ?)
伊織の必死な呼びかけは、その状態のまましばらく続いた。

(いお・・り?)
(イーガ?・・それともヨーガかい?)
しばらくして伊織の呼びかけに答える弱々しい声があった。
(い・・おり・・・そいつは・・・ダメだ・・・・・おれ達の制御からは、完全に離れてしまった。・・・頼む、逃げて・・くれ・・・僧院とこの地に襲いかかってくるものを全て滅するように・・・・念じてしまってる・・・)
(じゃー、完全にあんたたちの手から離れてるんだね?こいつを倒してもあんたたちには影響はないんだね?)
(倒す・・・できる・・のか?炎龍の聖気・・だぞ?)
(こっちには光の宗主(の卵だけど)がいるのさ)
(なんだって?光の・・そ・・うしゅ?)
(術者まで影響があるようじゃ倒せないんだよ。その点はいいのかい?)
(あ・・ああ・・・・いいぞ。おそらくは・・・・・・・オレには影響・・ない・・・)
(オレには?)
(あ、、ああ。。そうだな、オレたちには・・・)
その言い方が心にひっかかった伊織だったが、いくら麻依が守っているからとはいえ、その麻依の精神消耗も考え、行動は早く起こした方がいいに決まっていると判断し、すぐさま合図を送る。
「麻依!」
伊織の送ったゴー!のサインを見、麻依は気を高める。

温度を上げ高熱の上の高熱をめざし、彼らを焼き殺そうとしていたその炎龍の気の内部からそれ以上の高温を発し、暴発させてしまおうというものだった。
高くあげた麻依の手の先に光玉が形成され、その光のエナジーが徐々にふくれあがっていく。
そして、それは目を開けていられないほどのまばゆい爆発光となり、炎龍の気と共に消滅した。

「なんだか特大の花火の芯の中に入って、無声映画を見ていたような感じだな。」
「そうですな。」
出番のなかったカルロスと紫鳳は、そんな会話を交わして苦笑した。


そして、一行はその建物へ足を踏み入れる。何層あるかわからない地下深く続いているその建物に。

目指すはリュフォンヌから聞いた最下層の神官の書庫。そして、どこかにいるであろうイーガとヨーガの探索。
炎龍の気が消滅し、伊織がいくら精神集中して呼びかけても返事はなく、どこにいるかも分からないが、ともかく地下僧院のどこかにいることは確信している。


「伊織、行きましょう。」
「あ、ああ。」
それでも諦めきれず、目を閉じ精神集中して彼ら2人に呼びかけている伊織に、麻依はそっと声をかけた。

黄金郷アドベンチャー・本章2/その3・尽きる?光のエナジー

「さ??て、気持ちを入れ替えて出発しましょうか?」
夜も完全に明け、目覚めたカルロスと紫鳳と共に、2人で準備した朝食を取る。
といっても日持ちのする保存食だが、それでも、少しでも食事らしくしようと、飲み物だけは、お湯を沸かして、お腹(と心?)に暖かいものを入れた。といっても、インスタントコーヒーか紅茶である。シンプル イズ ザ ベスト!いつなにがあってもいいように、手際よくすませる。それが一番なのである。お湯を沸かす事でさえ、現状では贅沢なことなのである。(ほんとか?/^^;

麻依は、支度の調った3人に微笑みかけると、先に立って歩き始めた。


「今日はまたご機嫌がよろしいようで。あ、いえ、というより、巫女様のその手の明るい笑顔を拝見するのは、久しぶりだと感じるのですが。」

途中の休憩のとき、紫鳳が言ったその言葉は、カルロスも伊織も感じたことだった。といっても、2人にとっては、久しぶりに見るのではなく、初めてなのだが。

「そう?久しぶり?」
「そうです。微笑んでいらしても、どこか緊張感があるものでしたが、今日のは、このような危険地帯にいるというのに、ホントに心底から明るいといいましょうか?」
「ああ・・・そうね、そうかもしれない。」
にっこりと微笑んで麻依は続けた。
「昨日一日歩いてて思い出したの。」
「思い出した?何をですか?」
「いろんなところを冒険してた頃のこと。」
「とおっしゃいますと、やはり過去生?」
「そう。前世でも一時トレジャーハントしてたけど、それじゃなく、もっと前の・・・・そう、”まいむ”としての記憶の最初の頃の思い。冒険家として独立し、見る物聞く物、新しい地へ行った時、楽しくて、興味いっぱいで、わくわくしてたこと。その時のその気分がよみがえったの。」
「わくわく・・ですか。まー、普通のところでしたら、そうでしょうが。」
「そうよ。ここだってそうよ。未知の土地だもの。何が起こるか、何が待ち受けてるか・・・そう、そういう冒険家としての探索心を思い出したの。そうしたらね・・」
「そうしたら?」
「世界を救おうなんて肩に力を入れてたことがばからしくなってきたっていうか?」
「バカらしく・・・しかし、巫女様?」
「確かに、最終目的は世界から闇を払うことなんだけど、でも、今はこの探検を楽しもうと思うの。」
「楽しむ・・ですか?この、瘴気に包まれ、魔と化した森を進むことが?」
納得できないとでも言うように、少し呆れた表情で問う紫鳳、そして、同じく、訳が分からないといった表情で、じっと麻依を見つめているカルロスと伊織。
「確かに普通の感覚で行くと楽しいと言えるところじゃないけど、でも、初めての土地なのよ。新しい発見があるかもしれないわ。」
「新しい発見?」
「そう、たとえば・・・ほら、昨日、僧院まで光玉を飛ばして浄化したはずの道が、どん欲なまでに濃い瘴気が、早くも侵し始めてるっていうか・・・魔に置かされた木々の根が、浄化したはずの地面から突き出てきてる。」
麻依のその言葉に、3人ははっとして周囲を見た。
自分たちが通ってきた茂み、そして、進もうとしている方向、見た目には判断できないそこが、今ははっきり他と区別できた。
そう、浄化されたエリアと思われるその地面から、どす黒い根があちこちに張りだしていた。
「巫女様!それは新しい発見だと喜んでいる場合じゃないでしょぉ?」
「でも、発見は発見よ!私の光玉の浄化がたった1日ほどで効果なくなるなんて思わなかったのよ。すごいでしょ?」
「巫女様?!」
あきれ果て、紫鳳は麻依を睨む、と同時に、ふっと笑った。
その紫鳳を見て、カルロスと伊織は、周囲を警戒しつつ、なぜだ?と訝しがる。
「しかし・・そう言われればそうですね・・・」
「そうでしょ?」
麻依も紫鳳も、いつその木々が自分たちに襲いかかってきてもいいように、身構え、周囲に気を張り巡らしながら話し続ける。
「巫女様は天然でしたからな。」
「あら、合意したのはそっちの方なの?」
軽く紫鳳を睨んで笑う麻依。
「でも、前世より天然っぽさは薄れたと思うんだけど。」
「私は前世は存知あげませんが・・・・ははは・・・そうですね、脳天気でいてこそ巫女様。道がふさがれていようと、その脳天気さで、そこにはない道をそこに見つけられる。」
「それって、誉めてるの?けなしてるの?」
「そうですね・・・・”感心してる”では?」
「・・・・・なんかうまくごまかされたみたいだけど・・まー、いいわ。そろそろ来るわよ?!浄化の光玉を作ってる時間はないから、まずこの根っこの本体たちを倒すわよ!」
「オッケー♪片っ端から空の彼方に吹き飛ばしてやるから、あたいにまかしときな!」
「後からと言わず、今精神集中してくれてもいいんだぞ?敵ならオレと伊織に任せといてくれ!こういった輩との戦闘なら慣れたもんだ。」
麻依が天然かそうでないか、は、この際置いておいて、伊織とカルロスは、ようやく得た自分の活躍の場に、意気込む。
「ま♪頼もしいわ♪じゃ、時間が欲しいからそうさせてもらおうかしら?」
「そうして下さいますか?時間を短縮出来るならその方が良いと私も思います。巫女様に彼らの手が回らないよう、周囲に私が結界を貼りますので。」
「じゃ、お願いね♪」

襲いかかってくる鋭い木の根の集団と戦うカルロスと伊織、そして、守護結界を麻依の周囲に貼りつつ、2人に劣らぬ戦いぶりを見せる紫鳳。その3人の中心で麻依は、精神統一に入る。
前日の光玉よりも、より純度の高い光玉を、聖光玉と呼ばれる純玉を練り上げる為、自身を無防備状態とし、ひたすら精神を統一する。身の内にある光を呼び、1つの玉として集合させ、そして、増幅させていく、大きく、濃密に。


ひっきりなしに、そして尽きることなく襲いかかってくる木の根。本体の現れる気配はない。
本体を倒さなければ、トカゲの尻尾と同じで根はいくらでも斬られた口から再生し増殖してくる。
「キリがないな。体力的にはまだまだ戦っていられるが。」
「ここは、やっぱり巫女さんの光玉しかないのかね?」
戦闘しつつ、そんな会話をカルロスと伊織がしたその時、2人の頭に、紫鳳のテレパシーが響いた。
『本体が来ますよ!』
はっとして紫鳳の方を見る。と、彼がじっと睨んだ闇の一点がわざわざとうごめき始める。

『巫女よ・・・巫女・・・・光の巫女・・・あの光玉を我らに・・・巫女よ・・・光を・・・』

「巫女様っ!」
光玉をほぼ形成し終わっていた麻依は、紫鳳に呼びかけられて我にかえり、彼を、そして、その闇の中で蠢く物に視線を移した。

「待って!」
先手必勝、攻撃をしかけようとしていたカルロスと伊織を止め、麻依は2人の前に出る。

『おお、その光・・・聖なる光だ・・・巫女よ・・我らにその光を与えてはくれぬか。・・・・・我らをこの苦しみから解放してくれ。』

「・・・この森の精?・・・いえ・・・木々の精霊王?」
麻依の言葉に導かれるように、蠢くそれは、闇の中から徐々にその姿を表した。



『その通りだ。光の巫女よ。我はこの森の王。木々の王。』
「その木々の王が私の光玉を欲しておられるのですか?」
『闇世界から引き込まれた邪気により、我らは邪悪なるものとなろうとしている。苦しいのだ・・・我らは、流れ込んできた瘴気で一瞬にして魔の眷属と化した他の地の木々のようには、なれなんだ。我らの身体、そして、精神は、徐々に闇によってむしばまれている状態だ。徐々に・・・そう、ちょうど同じ体内で光と闇がその領域をめぐり諍いと闘争を続けているかのように。苦しい・・たまらぬのだ。古き木も新しき木も、頑丈な木も、弱き苗木も・・すべて・・苦しみのたうち回っておる。故に・・頼む、その光玉を我らに・・・この周囲一体の山々に、我らに・・くださらぬか?』
「木の王よ、私の光であなたたちの痛みがやわらぐのなら、そして、なくなるのなら、私はいくらでも光玉を作ります。でも、魔への傾斜が深いものにとっては、激痛・・いえ、ひょっとしたら、私の光は徒になってしまうかもしれません。」
『もとよりそれは承知。我ら皆、魔と化すより消滅を欲しておる。』
「・・そうですか・・・では・・」
「お待ち下さい、巫女様!」
麻依が光玉を森に照射しようと、大きく手を広げたとき、紫鳳が慌てて止めた。
「もう少しお考えになられてから決めてくださるとありがたいのですが。」
「でも、紫鳳、現に今、苦しんでるのよ?少しでも早いほうがいいじゃないの?」
「しかし、巫女様!このエリア一帯ということなのですよ。」
「そうよ!それが?」
「大丈夫なのでございますか?」
「あ・・・・・」
紫鳳に言われ、麻依は、改めてその広さに気付く。
「それに例え一度は、辺り一帯の木々から邪を浄化したとして、それでどうなります?この世界には瘴気が籠もっている、いえ、この世界の空気は瘴気と化しております。一旦は浄化に成功しても、再び侵されます。結果同じ事の繰り返しとなり、光のエナジーの供給は、絶えることなく続けなければなりません。」
「・・・・・そうね・・・でも・・・・」
頭では理解できた。今一部の木々に光を照射しても、それはまたすぐ闇に侵されてしまう。とすれば、予定通り僧院までの道を浄化し、光の塔の所在地を突き止めるべきだとも思う。が・・目の前で必死の思いで自分自身を侵しつつある魔の狂気を抑え、懇願している木の王を思うと、断るのは躊躇われた。
『その懸念はもっともだ。だが、我とて、だてに数千年長らえてはおらぬ。この地域には巫女が目的としている僧院を中心にして、巫女の光とは異なっておるが、ある種のエナジーの加護がある。だから我らは瞬時にして魔にはならなんだ。』
「ある種のエナジー?僧院を中心として?」
『強い気を感じる。あれは、そう、あれは、おそらく邪を払う炎龍の気。』
「イーガとヨーガだ!」
伊織が叫んだ。
「2人は、しばらく炎龍の元にいたことがあるんだ。だから、その気を吸収してるのかもしれない!」
『瘴気が世界を包み込んだとき、その気は我らに語ってきた。世界を守ろう!と。だが、我らの活力源である光は断たれ、その気に合わせ、瘴気を跳ね返すことができなかった。だが、巫女よ、もし今巫女の光を我らにくれるのならば、僧院からの気と我ら木々の気でこの地に強力な結界を貼ろうぞ。』
「確約できるのですか?」
「紫鳳!」
冷たくも感じられる口調で、王に聞いた紫鳳を、麻依は思わずにらみつけた。
「お叱りは受けます。ですが、私にとって巫女様は大切なお方。何よりも巫女様の安全が優先となります。」
『もっともな言い分だ。だが、決めるのは、巫女だ。』
平静を保ち、静かに言う木の王だったが、その瞳は、苦しみにあえいでいた。ひたすら麻依に懇願している瞳だった。
「やってみるわ!」
「巫女様!」
「結界が張られるのなら、僧院までの道の浄化も必要なくなるわ。何より目の前で苦しんでいる人を(人じゃないけど)見過ごすことなんてできないわ。」
「しかし!」
「大丈夫!・・・たぶんだけど・・・」
ふう、と大きくため息をつき、紫鳳は、それでも、避難の色を帯びた視線で麻依を見つめ続ける。
「”たぶん”、では済まされない問題なのですよ?」
「じゃ、”絶対”大丈夫よ!」
「巫女様?お気楽な天然思考で簡単に口先だけでおっしゃられても信憑性が伴いませんよ?」
「大丈夫!私が大丈夫だと思えば、大丈夫なのよ!」
「巫女様っ!?」

麻依は、木の王に目配せし、力強く頷いてから、光玉をその場で解放し、そのエナジーを周囲に照射した。


木の王の言う”このエリア”がどれほどの範囲なのか、それでも、相当な広範囲を覚悟して麻依は、光のエナジーを放った。

が・・・・・

(やっぱり光玉の分だけじゃエナジーが足りそうもないわね・・・)
手にしていた光玉はすでに森の木々に吸収され失くなっていた。
それでも、彼らは、光を欲し、麻依へと必死になって手を伸ばしてくるかのように要求した。
それは、乾きの果て、ようやく見つけた水辺に群がる動物のように、蜜に群がる蟻のように、どん欲にむさぼるがごとく求めてきた。瘴気による激痛から逃れるべく、流れ込んできた光を欲する。
『もっとだ!・・まだ足りぬ!・・・まだまだだ!これでは瘴気の方が強い!もっと光を!エナジーを!!!助けてくれ!!!』

「巫女様?!」
彼らのそのどん欲なまでの渇望に、思わず身震いした麻依を見て、紫鳳はぞくりとする。
(このままエナジーを吸い尽くされたら・・・巫女様は・・・)
慌てて麻依の背後に正座して精神統一し、紫鳳は自分の霊力を麻依に送る。
(あ、ありがとう、紫鳳。)
(何をおっしゃいます、巫女様。水くさいですぞ。最初からおっしゃってくだされば。)
(でも、紫鳳、反対みたいだったから。)
(まったく、余計なところで、意地を張られるのは巫女様の悪いところですぞ?そんなことで取り返しの着かないことになったらどうされるのです?)
(ご、ごめんなさい。)
テレパシーで紫鳳と会話すると、麻依は、紫鳳のおかげで楽に感じられる分、一層精神を集中し、自分の中の光を集め、増幅させていく。

(巫女・・様・・・・・)
(紫鳳?)
木々たちが欲したエナジーは、やはり尋常ではなかった。
霊力と気力を使い果たした紫鳳が倒れ、それでも、まだ彼らは麻依を放そうとしなかった。
一度つながったエナジーの補給路は、それを断つことさえ許さないとでもいうように、狂ったように、エナジーを欲して放さそうとしなかった。


「麻依!」
傍で見ているカルロスと伊織も気が気ではない。このままもし麻依が倒れてしまったら、世界を闇から救う手だては水泡に帰してしまう。
とはいえ、どうしようもないことも確かだった。
ただ、祈るように、直立不動のまま気を統一している麻依を見つめ続けていた。

(もう・・・だめ・・・・もう私の中のどこにも、光のエナジーのかけらさえも残ってないわ・・・・・・まだ、必要なの?・・・・・まだ?・・・・・・・)
麻依の意識が薄れかかっていた。まるで闇の手に包まれていくような気がした。闇に引き込まれていくような気が・・・・・

(いや・・闇になんて飲み込まれたくない・・・・・・真っ暗なんて・・・・・いや・・・私が好きなのは・・・青い空・・・そう・・・真っ青な空、輝く太陽・・・・・・・そう・・・・太陽・・・暖かい光・・・あの人の笑顔・・・)
生気も何もかも光に変換し放出しきってしまったと感じ、やはり紫鳳の言うとおりにすれば良かったのかと後悔しつつ、それでも、その事に思考が辿り着いた時、麻依は、はっとした。

(あるじゃない。まだ私にはあるわ。限りないエナジーが。心の中の青空・・暖かい光・・・・決して消え失せることはないわ。そう、溢れる想いに限りなんてない。いっちゃん・・・私に力を貸してちょうだい。あなたの笑顔。・・・そう、楽しかったあの日々を思い出して・・ほら・・・いくらでもあふれ出てくるわ。このエナジーを光に変換すればいいのよ。ううん、これが私の光のエナジーの源。いっちゃんへの想い。大丈夫、この愛に限りなどないわ。いくらでもあげられるわ。私の想い。光のエナジー。)

傍目にも、今にも倒れそうだった麻依が、何かのきっかけで立ち直ったことがはっきりと分かった。

目を閉じ精神統一した状態は変わらなかったが、両手を胸の上で組み軽く微笑みを浮かべた麻依は、それまでとはっきり違う余裕があるように感じられた。
光が彼女の全身から輝き始めていた。暖かくそして優しく包む光が、大きく、徐々に大きく膨らんでいく。


『巫女よ・・我らはもう大丈夫ぞ。巫女よ・・・・』
「み、巫女・・様・・・」
気付いた紫鳳が、慌てて麻依の正面に寄り、固く組んだ彼女の手を掴んで離させる。

「紫鳳・・・?・・・木の王?・・・・」
心、そこにあらず、あまりにも集中していた為、思考が止まっていた麻依は、ぼんやりとした頭で、目の前の紫鳳と木の王にそう話しかけるのが精一杯だった。


※Special thanks 紫檀さん<イラスト

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