2006年04月07日

黄金郷アドベンチャー・本章1/その5・そして街区にて

 「どうしたものか・・・・彼らは流れの剣士でしかないオレの説得など耳を傾けてもくれん。」
迷宮街区へ戻ったカルロスは、王子たち主だった者たちの説得を試みたのだが、彼らはどうあってもならず者との行動にはやはり抵抗があるらしく、素直に聞いてはくれなかった。それでも、最初は、それも仕方ない、今現在の窮状を脱出できるなら、という気持ちで、海賊船を訪れたはずだった。が・・・・やはり目の辺りにした彼らとは、肌が合いそうもなかったのである。

「確かに彼らの世界はきれい事だけでは片づけられない。特権階級の者たちには、その存在ですら許せないかもしれないが、彼らの瞳は、決して流されて海賊に落ちた者たちのそれではなかった。生命力、活力溢れ、そこに信念があった。どちらかというと、淀んだ瞳をしている特権階級より、オレは親しみを覚えるのだが・・・・・。それも、オレが冒険者として自由な生活をしているからだろうな。オレとて、昔なら彼らと同じだったかもしれなん。だが、今置かれている窮状を考えれば、昔のオレでも、譲歩しようと思うのだろうが・・・彼らは・・・」

「こんな状況下で、そもそも王族に統率権を持たせること事態が間違いなのよ!」
「ん?」

昏々と眠り続けているリュフォンヌの寝台の前に座り込み、彼女に話しかけていたカルロスは、パタンとドアが閉まる音と共に聞こえた、りんとした女の声に振り返る。

「キミは?」
「あたいは伊織。そこで眠っているリュフォンヌには、いくら返ししても返しきれないくらい恩を受けた者よ。」
一目で武闘家らしいと判断できる鍛え上げられた肢体。はっきりとした物言い。カルロスは好感を覚えた。
「だいたい、ああいった奴らはバックがなければ、自分自身など、そう大した力もないくせに、威張り散らすのよ。命じればなんでもやってくれると思ってる。王国というバックがない今、そんなものに従う必要なんていないわ。」
「はっきり言うんだな?」
「違うとでも言うの?そうじゃないのさ。あんたもこの現状を脱し、リュフォンヌを自由にしたかったら、仲間を選ぶのね。あいつらを頼ってちゃ、何もできずに終わるわよ。一人やきもきして苦労するだけ損だわ。」
「仲間か・・・そうかもしれんが、誰を選べば正しいのか・・・」
「あら?案外あなたってバカだった?」
「・・・」
(普通そこまではっきり言うか?初対面の男に?)
呆れたような表情で自分を見ているカルロスを、くすっと笑い、伊織は断言する。
「あたいは、その海賊を引き連れて異世界から来たっていう巫女さんにかけてもいいと思うわ。」
「事情を把握してるのか?彼ら以外には話してないが。」
「だから、それがいけないのよ!事は王族だけじゃないのよ?ここだけでもない。あたいたち世界が存続するかどうかじゃないのさ?」
「確かにそうだが。」
「一部の人間、しかも特権階級の人間だけがどうにかできるわけでもないでしょ?要は力よ!実力よ!幸いにも、ここに引き寄せられた街にいたのは、この迷宮の宝目当てで集まってきていた冒険者たちが多いしね。」
「そうだな。」
「だから、声をかけるならそっちにすべきよ。あんなでくの坊、無視しとけばいいんだわ。」
「でくの坊とはまた・・・」
はっはっは、思わずカルロスは笑っていた。
「巫女さんと連絡取れるのはあなただけよね?」
「ああ、リュフォンヌの意識を通してだが。」
「そう・・・・リュフォンヌも、やっと理解者を得られたのね。いつも孤軍奮闘してたあのリュフォンヌが・・・」
すっと横たわっているリュフォンヌの傍により、伊織は、そっと額にかかっている彼女の髪を整える。
「良かったね、リュフォンヌ。あたいも、あんたのおかげで大切な人を失わずにすんだよ。ちょいと形は違っちまったけどさ。だから、今度はあたいがあんたを助ける!ここにいるみんなを闇の瘴気から守るため、力を解放したまま、眠っているあんたを、目覚めさせてみせる!自由にして、あんたを恋人の胸に返す。」
ぽろりと流れ落ちた涙の跡を拭き、伊織はリュフォンヌに笑いかける。
「あんたは、頑張りすぎだよ。ずっとずっと頑張って来た。ううん、今もこうして頑張ってる。だから、そろそろ肩の荷を下ろして、自分の事だけを考えて、幸せになってもいいんだよ。」
しばらくリュフォンヌの寝顔を見つめていてから、伊織はくるっとカルロスの方へ向いた。
「じゃ、行こうか。冒険者の酒場へ。」
「冒険者の酒場?」
「ああ、そういう名前なんだよ。迷宮探索してたより抜きの腕の奴らがあんたを待ってる。あんたのその解決策に納得できりゃ、みんな協力してくれるさ。」


そして、伊織に案内され、カルロスは、冒険者の酒場へと向かった。


「いんじゃねーの?他に方法もないしさ。それで闇が払えるってんなら、協力しようじゃねーか?」
「そうそう、上品なお方は知らねーけどよ、オレたち達と海賊のどこがどう違ってるってんだ?商売してる場所が違うだけだろ?」
「ちげーねぇや。」
がっはっはっはっ!とお世辞にも上品とは言えない笑いだが、そこに生気はみなぎっている。冒険者の酒場にいた連中は、伊織が言った通り、一癖も二癖もありそうな面構えばかりであった。
それもそうである、今は安全地帯となっているこの迷宮だが、以前はここが魔物の住処だった。しかも、迷宮の最下層からにじみ出てくる闇の瘴気を吸った手強い魔物ばかりだった。その魔物と渡り合っていた者たちなのである。
あるものは名をあげる為、ある者は宝目当て、またあるものは、戦闘が命、とその理由はさまざまだが、魔の迷宮を探索するだけあって、見事な面構え、そして、チャレンジ精神は盛んである。
(そうだな、こいつらならあの海賊共にもひけは取らないよな。意気込みだけでなく、風貌も。)
苦笑しつつ、カルロスはほっとしていた。

が、一応王子らに、この事は報告しておくべきだろう、カルロスは、至極簡単に、仲間が見つかったから、我らで行動すると伝え、それに対して、勝手な事を、と渋い顔はしたものの、一応にほっとした表情でその話を受け入れてくれた。
「心ん中じゃ、賊と連れだって行動する必要がなくなったとほっとしてるさ。後は、いつもの通り、あたいらの報告を受けるだけさ。いいよね、特権階級は。命令してのほほんとしてればいいんだからさ。」
「しかし、キミは、のほほんとしてるのは好きじゃないんだろ?」
いかにもうらやましげにそう言った伊織にカルロスは笑いながら言う。
「あはは、そうだね、どこがどうなってるのか報告を待ってるより、最前線で自分の手で道を開いてる方が好きだね。」
「オレもだ。」
「そうかい?最初見たときは、あんたも彼らの部類だと思っちまったんだけどさ、違ってたんだね?」
「そうだな・・一昔前ならオレもそうだったかもしれん。だが、それでも、報告を受けるだけというのは、性に合わん。」
「で、いいとこのおぼっちゃんが家を飛び出して流れの剣士ってかい?」
「ほう、なかなかするどいな。」
「あはは、あんたからにじみ出てる雰囲気は、たぶん、育ちだと思ったからね。体躯も顔もいいからねー、ずいぶん泣かしてるんだろ?」
小指を上げ、伊織は笑う
「昔は・・な。今は、そのせいか、本気になった女になかなか振り向いてもらえなくて苦労し続けてる。」
「へ??、そうなのかい?あれ?じゃ、リュフォンヌは?」
「彼女がそうなのさ。惚れた時と場所は違うが。」
「ってことは、時と世界を越えて追いかけてきたってことかい?」
「そう言うと聞こえはいいが、単に未練たらしいのかもしれん。」
「いや、いいねー、そういうの。感動だよ。」
ばん!とカルロスの背中を勢いよく叩いてから、伊織は豪快に言った。
「じゃ、頑張って一日も早く世界から闇を払って、幸せになんなきゃね。」
「はは・・そうだな。で、キミはどうなんだ?」
「ああ、あたいかい?いるよ、いい人が。こんな筋肉女でがさつなあたいでも、真剣に惚れてくれた男がね。たださ・・」
「ただ?」
「あたいはどっちも選べなかった。」
「どっちも、というと?」
「ああ、双子なんだよ。まー、彼らとのいきさつはリュフォンヌがよ??く知ってるけどさ。」
「ここにはいないのか?」
「こうなる前にさ、ちょいと旅に出たんだよ。」
「旅に?」
「ああ。」
少しわざとらしく見える微笑みをみせてから伊織は言った。
「まー、今はその話はいいじゃないか。それより向こうと連絡つけるんだろ?」
「ああ、そうだな。」
それ以上話したくないようなそぶりの伊織に、カルロスは聞くことをやめ、酒場を後にして、リュフォンヌが眠っている祭室へ急いだ。
リュフォンヌの気を辿ってこの迷宮に来た巫女である。リュフォンヌを通せば連絡をつけることができる、カルロスは不思議と確信があった。

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