
??祭室入口??
「そう・・私もそれは賛成よ。」
眠り続けているリュフォンヌの聖なる寝室となっている祭室。
カルロスはその横に座り、じっと彼女を見つめ話しかけていた。
人々と街を引き寄せる為に多大な魔力を消耗したリュフォンヌ。そして、現在も尚この場所を人間にとって安全な場所として守り続ける為、力を放出し続けている。
ただ、最初街を引き寄せた時より幾分回復し、精神消耗量もようやく安定の兆しをみせていたということもあり、カルロスとならば意志通じが可能となっていた。短時間ではあるが、会話も可能なことを、今回初めてカルロスは発見した。
それは嬉しい発見だった。
「それから、彼女が言ってた黄金郷のことなんだが、オレはこの世界の人間じゃないから全く分からない。酒場で会った冒険者たちにも聞いてはみたんだが、どうも要領を得ないんだ。本当にこの世界にそんなものが存在するのか?」
そう、カルロスはリュフォンヌの魂に引かれ、異世界からこの地へ異次元スリップしたといって良かった。
「黄金郷・・・そう・・。私の意識に接触したあの巫女さんは、光の宗主の座につくことで世界から闇を払おうとしてるのね。」
「そうらしいが。」
「黄金郷・・・黄金の都、光の宗主の膝元、そこに天高くそびえる光の塔。宗主はその頂上にある天空の間で陽の光をその身に受け、世界にその恩恵を注ぐ。・・・・・この世界の者なら幼いとき誰しも聞かされるおとぎ話。」
「しかし、単におとぎ話ではないんだろう?」
「そう・・・だと思うわ。そうしてわざわざ異世界から、その次代の光の宗主になるべき人間の生まれ変わりがこうして世界を救うためにやってきたのだから。・・・でも、それは私たちには知りうることができないこと。本当に現存しているのか、本当に私たちこの世界に生きるすべての生命が、宗主から光の恩恵を受けているのかどうか。でも、こうなってしまった今、それしか方法はないと思うわ。」
「黄金郷に関する古い文書などどこかにないか?」
「そうね・・・・・私はどちらかというと”魔”に属する力の研究をしてたから、そっちの古文書についてはあまり詳しくないの。」
「キミは、巫女さんの言ってる方法は考えなかったのか?」
「ダメよ、カルロス。いくらこの種の力を身に引き入れる才能があったとしても、光の宗主となると別格よ。才能があると判断され、幼いときから御座を引き継ぐべき修業を積んだ神官でさえ、光の審判の前には、何人も滅せられたと聞くわ。」
「光の審判?」
「継承の最後の儀式で、宗主の座に最初についたときがそうなの。その身に光を受けたそのとき、真に宗主として相応しい身心を保持してないと、その光により一瞬にして消滅してしまうそうよ。身心というより、その人物の魂の本質を問われるのかもしれない。」
「魂の本質・・・。」
「それにしても、決然と光の塔を目指し、ここまで進んで来るなんて、大したものね。やはりそのくらいでないと、宗主の座につけないのでしょうね。・・そして、多分そうできるのは、彼女の魂の本質がそうさせるのだと思う。そう・・・彼女なら大丈夫だと思うわ。・・・彼女の意識は凛としていた。まぶしいくらいの光を感じたわ。最初、それが人の意識だと思えなかった。暗闇を突き抜け、一筋の光が真っ直ぐ向かってくる感じを受けたわ・・・。」
「光・・か・・・・」
「ちょっと待ってね、カルロス。彼女と接触を試みてみるわ。」
そして、巫女の麻依と今一度連絡を取り、カルロスは数名の冒険家を連れ、再び海賊船へと飛んだ。
海賊船エルファン号の一室。無言のままその部屋へ案内されたカルロスが引き連れた一行は、テーブルを挟んで、同じく無言のままその彼らを見定めるように見つめている海賊たちと見合っていた。
「あの・・・・・・・」
そして、永遠に続くのではないだろうか、と不安になった麻依が小さく声をかけたそのとき、
「ぶわっはっはっはっは!」
その左側の列の真ん中くらいにいた人が大きな声で笑い始めると、他の者も一斉に笑い出す。
そして、それは、海賊のクルーたちにも広がっていった。
「イヤ・・・これ以上にらみ合いはよそうぜ。巫女さんが心配で息苦しそうだ?」
「そうだな。麻依さんのことをすっかり忘れて睨み合ってた。」
「で?おれ達は合格か?」
「合格なんてとんでもない。オレ達こそよろしく頼むぜ。なんなら海賊にならねーか?」
「ぎゃはははは♪そりゃいいや♪世界から闇が去ったら考えるぜ。」
「はは、あんたとなら、思いっきり暴れられそうだ。あ、いや、あんたたちとなら。」
「おれ達もだ。さすが王族をびびらせただけある。といっても、あいつらは腰抜けだからな。」
「おいおい・・いいのか?あんたたちの殿下だろ?」
「いいのさ。報奨金も出せねーやつは、価値なしさ。」
「・・・・はっきりしてるんだな?しかし、こっちも報奨金はでないが?」
「オレらはみんな後悔してるのさ。」
その男は他のメンバーと視線を交わしてから少し神妙な面持ちで話し始めた。
「は?」
「オレたちは、リュフォンヌのことを・・あ、リュフォンヌの事は聞いてるか?」
「ああ、確か迷宮を闇の瘴気から守り、人々をそこで守ってるっていう魔導師だろ?」
「そうだ。オレ達はみんな、こうなってから、彼女が何を目指してたかわかったんだ。魔女と呼ばれようがなんと後ろ指を指されようが、必至で魔力を欲し、地下に潜っていった。闇を引き込もうとしていた奴に対抗するには、恐ろしいまでの力が必要だったんだ。それをオレたちは、恐ろしい勢いで魔力をつけていく彼女を魔女扱いし、自分たちの都合のいいときは、彼女の力を頼ったりしたが、それ以外は、恐れ、避け、まるで魔族だと言わんばかりの態度を取っていた。だから・・二度と同じ間違いはおかしたくない。幸い彼女は死んではいない。だから、彼女を助けたい。世界から闇を払って彼女に自由を・・って、今更勝手な言い分だが。」
頭をかき、苦笑をしてから、その男は麻依を見た。
「あんたは魔女とは呼ばれないだろうが、最終的な責任はあんたにかかっちまう。闇を払えるかどうか。」
麻依は男の目をじっと見つめていた。
「覚悟のほどは分かる。でなけりゃわざわざ異世界から来やしねー。だから・・だから・・こそ・・・」
少し照れくさそうに頭を今一度かいてから男は麻依に笑いかけた。
「せめてあんたの負担を軽くしたい。あんたが受ける苦労を少しでもオレたちで肩代わりしたい。闇に染まっちまっては光の宗主の座にはつけねー。あんたは凛として、そして笑っていなくちゃならねー。御座につくことだけが宗主じゃーないはずだ。あんたは光でなくちゃならねー。いかに瘴気が濃かろうと、あんたが下りた地は、瞬く間に浄化されていく・・・そのくらいでなきゃ、宗主の座にはつけねーだろう。・・なんてな・・・これはちっちぇー頃ばーさんから聞いたおとぎ話の受け売りだが。」
「そう・・ですか・・・では、私が瘴気に覆われ侵されている地に立つことも、宗主になりうるかどうかの一つの判断の基準になるんですね。」
「まー、言い伝えなら、そうらしいが・・・ホントかどうかは分からねーからな、じっくり相談してというか、覚悟を決めてからやった方がいいぜ。」
「ええ、そうね。」
「で・・・もしもあんたが光の宗主になりうる巫女さんなら・・・あんたを守り通し、世界を元に戻す。やりたいこともやれねーで、迷宮に幽閉状態なんざ、おれたちの性にあわねーんだよ。」
にこっと笑い、男は冗談っぽく付け加える。
「オレたちが宗主を守った・・・これって、新しい神話になるよな?それがオレたちへの報酬さ。・・あと・・巫女さんの笑顔・・か?宗主に直に微笑みかけてもらうなんざ、こんな時でもなけりゃ、あり得ないからな。」
照れくさそうに頭をかき、男は海賊たちの方へ視線を戻す。
「あんたたちもそうだろ?世界を救う!その言葉も甘い余韻があるが、そんな甘ったるいもんじゃーねー。みんな口には出さねーが、死を覚悟して来てるはずだ。男のロマン、滾る血に押されて、という理由もあるだろうが、平たく言やー、巫女さんの笑顔についてきたんだろ?巫女さんの笑顔は、なんつーか、その・・魂に光を感じるってのか?・・・あはは・・・・そんな感じがして、なんとなくいい気分なんだ。」
その言葉に、紫鳳船長、リーファ船長を筆頭に、そこにいた全員は頷いていた。
(麻依さんの笑顔か・・うーん、オレたちは見慣れてるからそこまで感じないが・・・それに、ハチの大おやじならそうだろうが、オレたちはどっちかというと、こうなったらもう男の意地というか・・・・女の麻依さんの手前、無様に尻尾巻いて逃げたくないと言った方がいいかもしれん。もっとも、逃げようにもここまで来ちまった限り、逃げ場もないからな。 腹くくって突進するしかないさ。(苦笑)
まっ、少しでも麻依さんの負担を軽く、とは心がけているが。おやじとの約束もあるし。海賊同士の約束ってのは、いや、誓いだな・・そりゃー固いんだ。あの世まで持ってくんだぜ!麻依さんを守れなかったら、あの世で大おやじに会ったとき、顔向けができねーぜ。)
全員かどうかは分からないが、心の呟きらしい。
「いよぉ????し!じゃ、話は決まりだ!三本締めと行こうぜ!」
ぱちん!と指を鳴らし、リーファが頷きながら言った。
「へ?なんだ、それ?」
「ああ、ここじゃそういう風習はないのか?これはオレたち海賊の中でも、摩衣霧の姉御・・もう死んでしまってるが、七つの海に海賊摩衣霧あり、と言われたほどの女船長さ。で、彼女の時から始まったっていう風習でな。っと、風習というほどの歴史はねーが、ともかく、気合いを入れて、手を叩くんだ。ちょいとリズムがあってな。気が合う同士なら、ぴったり合うんだぜ?それがまた心地いいのさ。」
「ほう・・それは面白そうだ。」
「同じようにすればいいんだな?」
「ああ、そうだ。いきなりでいいか?」
「もちろんだ。」
そして、海賊達の手元をじっと見つめて、冒険者たちも柏手を叩く。
三本締めは、思った通り、気持ち良く決まり、後は祝杯、無礼講に入った。
そこにはまるで旧知の知人たちの宴会場のような雰囲気があった。
「なんとか和合したようだな。」
「そうね。ほっとしたわ。」
仲良く酒を酌み交わしている海賊と冒険家たちを見つつ、カルロスと麻依は話していた。
「黄金郷についての古文書の在処も分かった。」
「え?」
麻依が目を輝かせてカルロスを見る。
「リュフォンヌがなんとか闇魔導師に対抗できる力を入れようとしていたとき、彼女は不確かでしかない神話の世界のそれは無視したらしいんだが、光の塔に関しての記述書を見かけた覚えがあるらしい。」
「どこで?」
「とある王国の田舎町にある古い僧院らしい。そこは、過去数度に渡る火山の爆発で、幾層にも街が重なって建てられているらしい。」
「幾層にも?」
「ああ。つまり火山の爆発や地震によって地中に埋まってしまった街の上に街を建てる。数千年の間のその繰り返しで、その街の土台は、幾層もの押しつぶされた街によってできていると聞いた。僧院は、その街の中央にあり、街の象徴として建てられた建物だけあって、他の建物と違い、完全に崩壊、又は地下に埋もれることなく、その上に増築されるという形で現在まで続いているらしい。」
「ということは、その塔は、潰され重なり土台となっている地下層にも、その僧院は続いているわけですね。」
「そうだ。だから、何層なのか分からないと言っていた。恐ろしく深い。そして、最下層の書庫にそれはあったと聞いた。リュフォンヌは、光の塔に関しての記述書より、自分に相応しいのは精霊王の風穴に関しての記述書だろうと第六感で感じ、そっちを手に取ったのだそうだ。」
「精霊王の風穴・・・」
「今オレたちがいるところが、迷宮だったころ、その一角にあったらしい。」
「そうなの。」
「そこで彼女は、人々が魔と恐れるほどの力を得たんだ。」
「そう・・彼女は、光の宗主は自分ではあり得ないと感じたのね。」
「たぶんそうだろうな。」
「世界に魔が侵攻してきてないときも、そこまでたどり着くにはずいぶん苦労したと聞いた。」
「今は、そこまで行く道ですら瘴気が覆い、魔がひしめいている。」
「地下層など格好の住処だろうしな。」
「そうね。・・・・やはり内陸部の探索は、そちら側の冒険者さんたちの方が良さそうね。」
「そうだな。彼らは魔の迷宮探索のエキスパートだからな。そっち側は、キミとあとキミが信頼のおける者1人か2人でいいだろう。・・ああ、あの神官がいいだろうか?キミを守り、霊力を補佐できるという。」
「そうね。霊力的に何かあった場合を考えると、やはり紫鳳は不可欠なメンバーよ。」
「こっちのメンバーはリュフォンヌと相談して選考するとしよう。残りは、船団と合流して、派手に暴れ、魔軍の注意を引きつければいいんだな?」
「冒険者の中には僧侶もいるって聞いたわ。私の光のエナジーを彼らに分け、魔軍を追い払った地から少しずつ浄化していってもらいたいの。人々が安全に暮らすことのできる場所を少しずつでもいいから取り戻していきたいわ。」
「分かった。それも彼らに伝えよう。」
そうして、2つのグループは、ようやく手を取り合い、闇からの世界解放作戦に取りかかることとなった。