2006年04月07日

黄金郷アドベンチャー・本章2/その2・野  宿

森の中、道とは到底呼べそうもないが、僧院まで光玉で浄化したその道を、木々の間をくぐって4人は注意深く歩き始めた。
光玉が通り過ぎたあとは、浄化済みのエリアかどうかは肉眼では判断できない。
本来なら自分が先頭を進むべきだと思ったカルロスだったが、光玉が通った目に見えない道を感じることができるのは麻依と紫鳳のみと言われればしかたがない。周囲の気配に気を配りながら、麻依の後にしたがった。そして、その後を伊織が続き、しんがりを守るのは当然紫鳳ということになった。

森の奥からは、獣や魔の咆吼が聞こえる。木々がざわめき、そのわずかな隙間から、風が、何者かの威嚇の念を乗せた殺気を運んでくる。


「前々世が海賊で、舟の操作に慣れているということは理解できるが・・・ともすれば足を取られそうなほど邪魔なものが突き出ているこの凹凸激しい坂道を、よくこれだけ軽い足取りで進めるものだな。」
先頭を行く麻依を見、カルロスは感心していた。それは伊織も同感だった。
「ほんとだねー、あたいみたいに身体が鍛えてあるってんならわかるけどさ?」
「巫女様は、過去生で、冒険家やトレジャーハンターなども経験がおありだそうですよ。」
「そうなの?」
「冒険家?」
「人知未踏の地での探索や魔物退治など、結構されてたみたいですよ。もっとも、魔物退治に魔の洞窟へ入るというような事は、巫女である今回の生でも、結構経験されてらっしゃいますが。」
「そうなのか・・」
紫鳳の説明で、2人は納得していた。
巫女装束のいかにも霊験あらたかな神々しさを放ち、凛と立つ彼女もいいが、身軽さを重視したつなぎの特殊保護スーツに身を包み、普通なら歩行困難と思える険しい山腹も、軽々と進んでいく彼女もまた悪くないと思えた。
(しかし、彼女はいつ気を休めるのだろう?)
彼女の周囲には、常にぴん!と張りつめた空気があった。
(あれほど気を張り続けて、切れてはしないだろうか。いや、彼女の精神がそんな柔なものとは思えないが、しかし、時には、気を休めることも必要なのではないだろうか・・・)
ふとそんな事を考え、カルロスは最後尾の紫鳳に視線を流した。
(確かに、彼は彼女にとって真に忠実な神官らしいが、何もかも気を許しているといった風ではない。霊力を駆使する場合、意識を通じさせるようだが、男女の想いというものは、見られないしな。・・・紫鳳の方は多少そんな想いもあるような気を受けるが、少なくとも、彼女にはそんな感情はなさそうだ。)

ひたすら真っ直ぐ前を見つめて進んでいく麻依の横顔は、それでも、悲壮さはどこにもなかった。
(・・わからんな・・。不思議な人だ。)


その夜、守護結界を張り、4人は大木の下で野宿をすることとなった。
たき火を囲み、交代で見張りをする。数日の徹夜などカルロスにとっても紫鳳にとっても軽いものでもあったが、そこはこの先何が起こるか分からない。相談の結果、1晩を交代で見張ることとなった。
と言いつつ、少しでも自分たちの方にその役を担おうと、深夜すぎまで見張り、夜明け少し前に麻依と伊織を起こすことになった。
大丈夫だから平等にという麻依と伊織を説き伏せ、というか、頼み込んでなんとか2人を言い含めた結果である。(笑


周囲に気を張り巡らしつつ、炎を見つめていたカルロスは、ふと、たき火を挟んだ正面に座している紫鳳に目をとめた。
目を閉じ、じっと瞑想に入っているような紫鳳は、いかにも神官らしい風貌である。が、僅かだったが彼からにじみ出ている気の中に、全体の気とは違った異質なものがあるように感じていた。
そして、それは、こうしてその場にいる人員が限られた人数であり、他から混ざりあうこともないその場において、それは確かなものとしてカルロスは感じていた。

「何か私にご質問でも?」
「あ、いや・・失礼。」
つい紫鳳を凝視してしまっていたカルロスは、不意にその本人から質問を投げかけられ、慌ててわびる。
「旅は道連れ、世は情け・・ですかな?僧院はもう目と鼻の先。そして、ここまで何事もなく順調に進んできましたが、先はどうなるか、何が待ち受けているのか分かりません。」
紫鳳は閉じていた目を開け、穏やかな微笑みをカルロスを向けた。
「仲間内で行動がちぐはぐになってもいけません。気がかりなことははっきりさせて、多少なりともお互いのことは理解しあっておいた方がいいと思いますが?」
「まー、そうかもしれんが・・・」
そういえば、こうして世界を救う為という仰々しい目的を掲げ、そのカギとなる文献を求め、共に旅立った。が、ゼロに近いくらいお互いの事は知らない。個人的な事は必要ないと言えばそうも言えるが、仮に窮地に陥った場合、やはりある程度理解しておいた方が、対処方法も思いつきやすい。相手の性格からできうる行動を推測し、それに合わせ自分も次の行動を決めることができるからである。

「貴殿は、確か麻依殿とは、血の聖約で主従関係を結んでいる・・であったと記憶しているが?」
「そうです。私は巫女様のご命令ならば、いかに困難なことであれ、この命を賭し、それを成し遂げねばなりません。」
「『成し遂げねばならない』・・か・・『成し遂げる』ではなく?」
紫鳳から返ってきたその言葉の語尾が気に掛かり、カルロスは無意識に小さくつぶやいていた。
「おや、気になりますか、そのような些細な事が?私としては、同じ意味で申し上げたのですが。」
「いや、失礼。私も気にするほどのことではないと思ったのだが、つい口に出た。」
「・・・やはり感じますか?」
「は?」
「私の闇の気を?」
「紫鳳殿?」
「並の剣士ではないと思いましたが、どうやらそういった輩とは、結構お付き合いがありそうですね?」
「そういったとは、『闇』に属する輩ということか・・・・」
カルロスと紫鳳は、それぞれ相手を見定めようとするかのごとく、しばしじっと視線を交わしていた。
「そうだな、この世界へ来るまでは、魔が徘徊する塔などを冒険の拠点としていたからな。結構そういった気には、敏感になっているかもしれん。」
しばらくたって、カルロスが自嘲めいた笑みを浮かべてつぶやいた。
「なるほど。それから・・ついでにお聞きしますが、あなたは、惚れた女の生まれ変わりを追って異世界から来たと聞きましたが?」
「ああ、そうだ。諦めの悪い男だと思うだろうが、事実だ。」
「リュフォンヌ殿がそうだとか?」
「そうだ。」
「ふむ。その点では、巫女様と亡くなられたご主人と、共通点がありますかな?では、ようやく会えた彼女を大切にしてあげてください。」
「はは、それは勿論だが・・で、神官殿は?彼女とは?」
「私ですか?私は・・主に忠実に。ただそれだけです。」
「それだけか?他には?」
「何もございません。主に忠実に。」
「主に・・か・・・・・」
紫鳳のその言葉に、どこかすっきりしない感を受けながらも、カルロスは、その話題をそこで止めた。


(『主』・・か・・・)
涼しげな顔でカルロスにはそう言ったものの、紫鳳もまた、自らが口にしたその言葉に囚われていた。
(主か・・・・我が・・真の主からは、まだ何も命が下りていない。私が帰参していることはおわかりであろうものを。・・・何を考えておられるのか。それとも翠玉の巫女暗殺に失敗した折、早くも私は僕から除外されてしまっているのか。血の聖約を結んだからか。しかし、我が主は、重々承知しておられるはず。この私が主に対して謀反など起こさないことは・・・。・・このまま光に世界を取り戻させるおつもりか?それとも、私の心を試しておられるのだろうか?・・・揺れている私の本意を?・・・あるいは・・もはや主からは、見放されているのだろうか?・・私は・・・)
いつになく紫鳳は、深く考え込んでいた。


??パチパチパチ??
夜明け少し前、先番である紫鳳とカルロスと見張りを交代した伊織は、同じく見張りを交代した麻依の横顔をしばらくじっと見つめていた。
燃えさかるたき火の炎を何か考え込んでいるように見つめる麻依の横顔がなぜか伊織には心に焼き付く感じを覚えた。


「だけどさ、ほんとにあんたって、分からない人だね?」
そのまま沈黙していることが苦痛になった伊織は、軽く息を吐いてから、冗談っぽく麻依に話しかけた。
「え?そう?」
麻依は伊織の方へ向くと、気さくに返事をする。
「そうだろ?どっから見ても神の代理人といったあたいらなんか足下にも近寄れそうもない神聖な巫女さんかと思うとさ、あっけらかんとして気さくに接してくれるしさ、こんな道もない奥地でもへっちゃらで?」
「大口あけて笑うし?」
「あはは♪あたいの言葉を先に言わないでおくれよ。そうさ、そのとおり。」
「でも、巫女の私も今の私も同じ人間よ。要は、臨機応変にやってるだけよ。」
「あはは、臨機応変か。それは重要なことだよね。」
「そう。でも、よかったわ、一緒に来てくれたのが伊織さんで。」
「やっぱり男ばっかりだとあれかい?」
「そうね。やっぱり女同士っていいもの。」
「あは♪あたいなんてさ、男勝りで女と言えるかどうかわからないけどね?」
「そんなことないわよ。伊織さんはとっても女らしいわ。」
「またまた??、口もうまいね麻依は。筋肉女のどこが女らしいって?」
「見た目というよりここよ、ここ♪」
自分の胸にそっと手をあてて麻依は伊織ににっこり微笑む。
「あはは・・・それってさ、イーガとヨーガとのことかい?」
「そうじゃないの?あなた・・2人とも好きなんでしょ?どちらか選べないくらい。」
「・・・ずるいだけなのかもしれないよ。」
「ううん、私はそうは思わない。」
やさしく語りかけているような麻依の視線を流し、伊織は口調を変えて言った。
「カルロスを通して、リュフォンヌから2人が無事でいるって聞いたときは驚いた。迷宮の外にいる人間は、みんな瘴気にやられちゃったと思ってたからね。」
「伊織・・」
「僧院の奥の奥、地下深くか・・・・リュフォンヌのおかげで、2人の気は感じるんだけどさ、声が聞こえるわけじゃないし・・なんか幻を追ってるみたいな気もして・・・落ち着かないというのも確かだね。不安になるっていうか。」
「幻・・・・」
麻依は伊織の言葉を反芻した。
「そうね・・私の追いかけてるのも幻なのかもしれない。」
「光の宗主のことかい?」
「・・・・光の宗主・・・光・・・幻・・・そうかもしれないわね・・(そして、いっちゃんも)」

沈んだ表情になり空を見つめたまま黙ってしまった麻依の背中をしばらく見ていた伊織は、その空気を吹き飛ばそうと、わざとばん!と勢いよく叩いた。
「その幻を現実にする為に行くんだろ?幻を幻で終わらせないためにさ?」
驚いた目で数秒間伊織を見ていた麻依は、こくんと首を振った。
「そうね・・そうよね。ごめんなさい。ちょっと弱気になってたわ。」
「何もかも自分が、って頑張りすぎなんだよ、麻依は。」
「そう・・かしら?」
「そうそう。適度に息抜かないと、詰まっちゃうって。あんたに必要なのはね、もう少し肩の力を抜くことさ。あの野球拳のときみたいに。」
「野球拳・・・」
「そ♪」
「野球拳・・・そうね・・でも、あれはちょっとやりすぎちゃった気がするんだけど・・・」
「あはは♪確かにそうだけどね???」
2人は同時に笑い始めた。

「う・うう????ん・・」
「あっ!いけない!あんまり大声で笑うと紫鳳たちが起きてしまうわ。」
「そうだね、なかなか眠りそうもなかった2人を、せっかく術で眠らせたのにね?」
「そうそう♪」
ふふふっ♪っと2人は愉快そうに、今回は、小声で笑い合った。

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