2006年04月07日

黄金郷アドベンチャー・本章2/その4・猛き炎龍の気

「ありがとう。もう大丈夫よ。出発しましょ♪」
しばらく身体を横たえ休息を取ると、麻依はしっかりとした口調で言った。
「しかし、巫女様、尽きる程光のエナジーを放出されたのです。今しばらく休まれた方がいいのでは?」
「大丈夫よ、紫鳳。この辺り一帯はもう闇には汚染されてないんだし。」
事実、そこは明るい太陽の日差しこそなかったが、黒褐色に染まった樹木はもう見られず、どれもみずみずしい緑の葉を湛えた木々に戻っていた。そして、闇の瘴気がにじみ出、黒ずんでいた道も、元のきれいな土色を取り戻していた。

「あは♪麻依がいったん言い出したらもうダメだよ。誰がなんと言おうが一度口にしたことは引っ込めないもんね?」
伊織の言葉に苦笑するカルロスと、ため息をつく紫鳳。
今少し休ませたかったのが紫鳳の本音だが、伊織の言うとおりである。
しぶしぶ出発を承知し、一向は再び僧院を目指して歩き出した。

だが、それまでと違う。僧院までの道、幾多の魔からの襲撃があるだろうと予想していた時と異なり、まるで森の中の散策でもしているかのように、行程は順調に進んだ。
おそらく木の精霊王の指示なのだろう。からみつくように茂っていた樹木も、彼らが近づくとカーテンが開くように道を空けてくれた。
「これで陽の光さえ射してれば、木漏れ日のアーチなんだけど。」
「そうだね、でも、今は緑のアーチだけでも、なんかすがすがしいような気がするよ。」
「ホントにそうだ。樹木の緑がこんなに安らかに感じるとは思わなかった。」
「今までが今まででしたからね。」
4人はあれこれ話ながら道中を急いだ。


そして、僧院前。人々からは忘れ去られ、自然の侵食に任せたままになっているそれは、確かにあちこち崩れてはいるが、それでも、よほど頑強に作られたのだろう。塀は変わらずその役目を果たし続け、ぐるっとその高い塀に守られたその僧院の扉もまた侵入者を固く拒み、しっかりと閉じられていた。
「中からカギ・・おそらく閂だと思うが、それを抜かないことには、空きそうもないな。」
ガタガタと扉をなんとか開けようと試みていたカルロスが、そう言って3人の方を振り向く。
「そう。じゃ、私が開けるわ♪」
「は?」
「麻依?」
「巫女様?」
引き留めようとした紫鳳より行動に移した麻依の方が早かった。
近くにあった大木にするするっと登ると、ロープを使い、あっという間に塀の上へ飛び移る。
そして、唖然として見つめている3人にウィンクすると、向こう側に姿を消した。

ゴトゴトガタガタと閂を抜く音がし、大扉は軋みながら開いた。
「・・・巫女様・・・」
「え?なーに、紫鳳?あら?そんな恐い顔しないで?これくらいなら何ともないことくらい、紫鳳なら知ってるでしょ?」
「しかし、巫女様・・巫女様は今体力的にも精神的にも疲労されて・・」
「やーね、紫鳳ったら・・・そんなの歩いている内に回復しちゃったわよ。」
ふ????・・・・・・・半ばあきれかえった表情で紫鳳は特大のため息をつき、そんな紫鳳と麻依を見て、カルロスと伊織も苦笑するしかなかった。


「確かに陽の光とは違うけど、清浄な気を感じるわ。そう強くはないけど、僧院の中はちょうどその気でふんわり包まれて保護されてるって感じね?」
「そうですな。」
尖塔をいただく建物に向かって歩きながら、麻依はその気が少しずつ強くなってきていることを感じた。

そして、その中央扉に手を掛ける。
「ちょっと待っとくれ!」
背後の伊織の声が麻依の手を止めた。
「伊織?」
振り返った麻依の目に写ったのは、不安そうな伊織の顔。
「何か?」
「いや・・気のせいかもしれないけどさ・・・・あたいもしばらく炎龍の傍にいた。だから・・」
「だから?」
周囲の気を読み取るかのように口を閉ざした伊織に、麻依は聞く。
「なんだか、扉を開けると同時に襲いかかってくるような・・・?」
「え?でも・・この気はイーガさんとヨーガさんのものなのでは?」
「ああ、そうだよ。」
こくんと頷いてから、伊織は続けた。
「確かにイーガとヨーガが自分でも気づかず、炎龍から受けて吸収した気だけどさ、なんだかやばい気がする。」
「やばい・・というと?」
「うーーん・・・なんとなく感じるだけだから・・・・うまく説明できないんだ。」
「それはおそらくあれでしょう。」
麻依と伊織の話をじっと聞いていた紫鳳が静かに口を挟んだ。
「あれ・・って?」
「おそらく闇の瘴気をはね除けるため、彼らは持ちうる限りの闘気を乗せて放ったのだと思います。」
3人を一様に見回してから紫鳳は続ける。
「闇の気は強い。通常ならいくら炎龍から吸収した気だとしても、普通の人間でどうにかなるものではない。おそらく極限まで己を鼓舞し、放ったと思われます。」
「紫鳳、ひょっとしてあなたが言いたいのは、2人が放った炎龍の気は、2人の手を離れ制御不可能となってるってこと?」
「そうです。しかも、おそらくはこの建物の中で、闇を滅しようとする意識との高まりで膨張しているかもしれません。」
「膨張・・・・・もしかして、炎龍とまでいかないが、それなりの形を形成してるとでも?」
カルロスの言葉に、紫鳳は頷き、答えた。
「その可能性が高いです。入口の呪印は、世に害をなそうとするものを封じる力があります。おそらく、聖気のみ、ここからにじみ出、周囲一体に広がったのでしょう。しかし、中に封じられているモノは・・・それ故一層膨張し、そして、今、相手が闇かどうかの見境などはつかなくなっていると思われます。」
「それって、侵入者はすべからく敵とみなしてるってことかい?」
「でしょう・・ね。」


「でも・・・・入らないわけにはいかないわ。」
しばらく無言で扉を見つめていた4人だが、麻依のその言葉に反対する理由はなかった。
開けた瞬間に戦闘に入っても良いように気構え、扉を開ける。
もちろん、大丈夫だからという麻依を説得して退けさせ、その役目はカルロスが受けた。

その扉は、特別な封印がしてあった。ドアの表面に縦横4マスの木組みのパズルが備え付けてあるといえばいいだろうか。封呪の印形となっているそれを、スライドさせ解呪するのである。だが、ただスライドしてその印形を崩せばいいというものではない。解呪の印にしなくてはならなかった。
カルロスはリュフォンヌから聞いてきたとおりに、一つ一つスライドさせていく。

「これを動かせば、扉は開く。」
カルロスは、3人を今一度振り返ってから、それを動かした。
??バン!??
と、まだ扉には手をかけていないにも関わらず、封呪が解けたと同時に、荒々しい気を伴った熱風が中から飛び出、4人をそのまま巻き込む。
が・・・それは予想してのことである。4人は麻依の光玉に守られ、熱気を受けることはない。

熱風は4人をその中に巻き込んだまま、高く高く舞い上がる。まるでようやく外に出られ、自由を得て喜んでいるかのように。
そして、それは徐々に炎龍を象っていき、その透明に紅く燃えるそれは、確かに麻依たち4人を敵視していた。

身構える4人は依然として炎龍となったその炎の中に包まれていた。
「伊織!」
「任せときな!」
その中で、打ち合わせどおり、伊織は自分の意識を集中して、この敷地内のどこかにいるだろうイーガとヨーガに呼びかける。
(イーガ!ヨーガ!あたいの声が聞こえるかい?・・・もう大丈夫だ!光の巫女が来てるんだ!だから、炎龍を・・炎龍の気を静めておくれよ!イーガ!ヨーガ!あたいが分かるだろ?)
伊織の必死な呼びかけは、その状態のまましばらく続いた。

(いお・・り?)
(イーガ?・・それともヨーガかい?)
しばらくして伊織の呼びかけに答える弱々しい声があった。
(い・・おり・・・そいつは・・・ダメだ・・・・・おれ達の制御からは、完全に離れてしまった。・・・頼む、逃げて・・くれ・・・僧院とこの地に襲いかかってくるものを全て滅するように・・・・念じてしまってる・・・)
(じゃー、完全にあんたたちの手から離れてるんだね?こいつを倒してもあんたたちには影響はないんだね?)
(倒す・・・できる・・のか?炎龍の聖気・・だぞ?)
(こっちには光の宗主(の卵だけど)がいるのさ)
(なんだって?光の・・そ・・うしゅ?)
(術者まで影響があるようじゃ倒せないんだよ。その点はいいのかい?)
(あ・・ああ・・・・いいぞ。おそらくは・・・・・・・オレには影響・・ない・・・)
(オレには?)
(あ、、ああ。。そうだな、オレたちには・・・)
その言い方が心にひっかかった伊織だったが、いくら麻依が守っているからとはいえ、その麻依の精神消耗も考え、行動は早く起こした方がいいに決まっていると判断し、すぐさま合図を送る。
「麻依!」
伊織の送ったゴー!のサインを見、麻依は気を高める。

温度を上げ高熱の上の高熱をめざし、彼らを焼き殺そうとしていたその炎龍の気の内部からそれ以上の高温を発し、暴発させてしまおうというものだった。
高くあげた麻依の手の先に光玉が形成され、その光のエナジーが徐々にふくれあがっていく。
そして、それは目を開けていられないほどのまばゆい爆発光となり、炎龍の気と共に消滅した。

「なんだか特大の花火の芯の中に入って、無声映画を見ていたような感じだな。」
「そうですな。」
出番のなかったカルロスと紫鳳は、そんな会話を交わして苦笑した。


そして、一行はその建物へ足を踏み入れる。何層あるかわからない地下深く続いているその建物に。

目指すはリュフォンヌから聞いた最下層の神官の書庫。そして、どこかにいるであろうイーガとヨーガの探索。
炎龍の気が消滅し、伊織がいくら精神集中して呼びかけても返事はなく、どこにいるかも分からないが、ともかく地下僧院のどこかにいることは確信している。


「伊織、行きましょう。」
「あ、ああ。」
それでも諦めきれず、目を閉じ精神集中して彼ら2人に呼びかけている伊織に、麻依はそっと声をかけた。

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