「ああ・・そうかもしれん。人の思念というものは瞬間的なものだからな。次元が違うのかもしれん。走るという動作がある時点で遅れをとっているやもしれぬ。」
「そうね。」
どれほどファスの全力疾走が続いていただろう。そのあまりにものスピード故、麻依はひっしでファスの首に巻き付いていることしかできなかった。
ファスに言わせると、落っこちないだけでもたいしたもんだ、ということだが。
その間、いろいろなところを通過した。麻依の思い出ももちろんあり、過去生の思い出、そして、関わり合った人たち、今仲間が引きずり込まれているらしい夢の世界など、様々だった。
それほど幾多のの世界を駆け回ったのに、出口は一向に、紡いでいる途中の心のトンネルの先は見えなかった。
「え?ファス?・・・・」
一旦立ち止まりそんな会話をしていたときだった。ファスの姿が徐々に薄らいできた。
(いけない!ファスが目覚めようとしてるのね?)
麻依は慌てて薄らいでいくファスの背から飛び降りた。
いきなり消えて尻餅をつくには高さがあるから痛い。(笑
(麻依・・・・・見事、脱出するのだぞ・・・)
そんなテレパシーを残し、ファスは残念そうに消えていった。
「ふう・・どうしよう?またスタート地点に戻ってしまったわ。」
と、ふと麻依は、この夢に足を踏み入れたとき感じた恐怖となつかしさが入り交じった気配を感じる。
「この感覚・・・・今までいろんなところをファスと一緒に通過してきたけど、なかったわよね。恐怖と言っても絶望的じゃない。それになつかしさも含んでいる・・・つまり、出会うことを恐れてる?・・・それって・・・・・ひょっとして・・この先にいる人は・・・・」
麻依は、覚悟を決めて、ゆっくりとそのトンネルを歩いていった。
「・・・・・・」
ふと麻依は前方にぼんやりと見えてきた人影に注意を集中して目を懲らす。
「いっちゃん?・・・・」
その人影がはっきりしないうちに麻依は無意識に呟いていた。
少し足早に人影に近づくと、不意にすっと霧が晴れた。
そこはどこかの事務所のような一室のようだった。
その人物は、ドアを開けて入ってきたわけではなく不意に出現した麻依の姿を認めるた瞬間、少し驚いたような表情を見せ、そしてすぐ無表情になる。
それはほんの一瞬だけの表情の変化。普通なら気づかないほどの瞬間的なものだった。
やはり夢だと思っているのだろう。(事実夢なのだが)
麻依はそれに気づき、ふっ・・・と軽くため息にも似た小さな笑いをこぼす。
「お久しぶり・・といっても関係ないって言いそうよね?でも・・・・」
麻依はまるっきり無視され(/^^;)、自分が落ち込む前に、軽く手を上げ、光の拘束帯で一休を覆う。
しばらくそのまま一休を見つめていてから麻依は口を開いた。
「なつかしさと恐怖・・・なつかしい人に出会ってしまう恐れ、なつかしいけど拒否されてしまうのが分かってるその恐怖・・・そうよね、そんな感覚はこの出会いしかないわよね、殺し屋一休さん。」
「・・・・・」
「前世の・・・ううん、過去生の記憶は・・あるわ・・よね?」
その確信は一休の瞳から読み取れたが、一応確認してみる。
が、麻依の予想通り、自由になろうという気もない一休は、じっとその拘束された状況に甘んじ、ただ、静かな視線を麻依に送る。いや、そこに麻依を認めていないようでもあった。ただ、前方を見ている、それだけ。
そんな一休を前に、にっこりと微笑んでから麻依は話し始めた。
「そうよね、あなたは何も言わなくてもいいわ。と言わなくても言うつもりはないのよね、そうでしょ?そうやってじっと見つめてるだけ。しかも空を・・ね?でも、その瞳、殺し屋さんにしてはやさしいわね。やっぱりあなたはどちらかというと光よね?こうして光を目指しているこの私の方が闇を持ってるみたい・・・そう・・・・これも夢を紡いでいるあの夢馬の操作なのかもしれない。弱い部分が増幅されてきているのが・・・自分でも分かって恐いほどだわ。」
麻依の口調が、トーンが徐々に暗くなってきていた。
「そう・・・坂道を転がるように・・・・・・・勢いよく風船がふくらむように、私の中で・・・・」
しばしの沈黙の後、麻依の口調ははっきりと闇を含んだそれになっていた。
「いっちゃん・・・・・私がどれほど苦しんだか・・分かる?・・あなたさえいなければ、こんな苦痛を背負い込むことはなかった。私たちは特に特別な存在ではないはずよ。ごく普通の人間のはずなのに、なぜここまでしなきゃいけないの?なぜ納得もしてない、ううん、説明すら聞いていなかった私に、選択の余地も与えず課したの?『愛してる、信じてるから信じてくれ』その拘束帯が私をがんじがらめにする。そんな権利があなたにあるの?前もって話してくれていれば、少しは楽だったかもしれない。ううん、”オレは闇に下る。だからキミは光を目指してくれ。そして、光と闇の頂点に立つ者として会おう”その口からそう言ってくれさえしたら・・苦痛も苦痛じゃなくなってたわ。なにより時として何もかも放り投げて死にたくなるほどの焦燥感を感じることはなくなるわ。」
そこまで言うと、不意に麻依は口を大きく開け高らかに笑った。
「言っても無駄よね。そうあなたはいつもそう。なんでも承知しきった顔で、そうしてただ黙って受け止める。そう、たとえここで私があなたを殺しても喜んで受け止める。私の苦しみを少しでもそれで和らげられるのなら、膿をはき出させる為なら、死をも厭わない。・・・・でもね、いっちゃん、それってよけい私を追い込むのよ。知ってた?私は二人で背負いたいのにあなたは自分の方へ引き寄せようとする。かばってくれるのは、守ってくれるのは嬉しいわ。でも、あなたのは・・・あなたの場合は、傍に私がいる必要はないんじゃないかと・・・感じてしまうほど一人だけで、あれもこれもどんな困難、苦行や苦痛も乗り越えていく。そうね・・錯覚じゃなく、それが事実なのかも。私が傍にいる価値などどこにもありはしない。そうでしょ?私が受けるべき苦難もあなたは自分の方へ引き寄せて2人分背負ってしまうんですもの。そして、私などいなくてもあなたはそれを乗り越え、突き進んでいくわ。どこまでも。キミがそこにいて変わらぬ愛で待っていてくれるからどんな困難もモノとはせずに乗り越えられるんだ、は、なしにしてね。待っているのも修行のうちは、いらないわ。って、今更言ってみても始まらないわよね。自分がますます道化に思えるわ。」
自分の気持ちを静める為か?麻依はしばらく口を噤み一休をただじっと見つめていた。
「・・いっちゃん、あなたのその視線、やっぱりやさしすぎるわ。闇の陰りが少なすぎよ。今の私の光のレベルと比べるとあなたの闇レベルはなっちゃいないわね。もっとも超一流のスナイパーだって人を愛する心を持ってる人もいるから、仕方ないかもしれないわね。殺し屋くらいじゃ甘いんじゃない?私がもっと簡単に闇に染まれるところへ飛ばしてあげましょうか?夢が力も増幅してくれるみたいだから、普通ならできそうもない事もできそうよ。ね、いっちゃん、あなたがいる世界は平和すぎるわ。殺し屋くらいじゃ無理よ。・・でもないでしょうけど、いっちゃんなら必ず闇にたどり着くでしょうけど・・・でも、もっといいところがあれば、そこへ行ってもいいわよね?・・・・そうね・・・・」
目を閉じそれまでファスの背に乗って通ってきた道を麻依は心の中でトレースする。
そして、ゆっくりと目を開けると同時に不気味な笑みをこぼす。
「今一緒に夢を見てる仲間の一人が、まさに闇世界にいたの。そこが彼のふるさとらしいわ。手をさしのべたかったけど、夢の中だけじゃ本当に救ったことにはならないから、後ろ髪をひかれる気持ちで、そこを通り抜けたわ。あなたを・・その世界へ送ってあげるわね。そこはね、混沌とした暗黒の世界。強者にして狂者の世界。未来の見えない世界。そこで生きとし生きる者は、ただ目の前に見える己の命しか見えない。視野に入ったのは全て敵であり己より弱ければそれはエサになる。常に餓えに支配され、絶望に支配され、強者を恐れ弱者を襲う。それが常の世界。心安らぐ時は微塵もない、そんな世界。あ、闇へのちょうどいい足がかりになると思って喜ばないでちょうだいね。ただでは行かせてあげないわ。夢で経験してもダメだもの。本当にその世界へ行かなきゃ。」
ふふっと笑って麻依は続ける。
「その世界に転生するのよ。そう、転生。だからあなたは今ここで死ななければならないの。大丈夫よ、この夢の死は現実らしいわ。心が、つまり夢の中で魂が死ねば、それは眠っている状態の肉体の死をも意味するから、あなたはきちんと死ねるの。ということで、今までのお礼を込めて殺してあげるわね。ああ、大丈夫よ、ちゃ????んとあなたの好きな激痛のおまけをつけてあげることを忘れないから。しかも、簡単には楽にならないように、ね?・・・・って、涼しい顔ね、いっちゃん。私の毒をはき出させる為なら、激痛も厭わないって表情?・・それとも、私を突っぱねたのは、今日のこのことを予期してだったり・・する?・・闇になるために一番高率のいい世界へ飛ばしてもらえること・・・を・・予想しての、こうなることを予想しての行動だっ・・の?・・なんだかそんな気がしてきたけど・・・・」
それはまるで麻依の一人芝居のようだった。
一休は身動き一つせずじっと、ただじっとそんな麻依を見つめている。もっとも光の拘束帯の効力は続行中だから動きようはない。が、あえてそれに対抗しようともせず、一休は静かなのである。
「ほんとポーカーフェイスが上手よね。どんな激痛を与えても、あなたは涼しい顔をして受け入れる。どんなに私が罵ろうと、深い底のない澄んだ湖のような心でそれを受け止める。私のことをなんでも知っていて、私は・・・あなたが見えない。卑怯だわ、そんなの!」
「ねー、前口上長くない?殺るなら、さっさと殺っちゃえば?」
不意に麻依の背後から声が聞こえた。しかもそれは同じ麻依の声。
さすがの一休もポーカーフェイスを崩し麻依の背後に視線を飛ばし、もちろん麻依は驚いたように振り返る。
「ども??♪天然麻依でぇ??す♪」
「そ、そんな馬鹿な・・・私があなたを意識下に封じ込めてるはずよ?」
「ふふ♪確かに一時はね。あなたが特出してきたときは、自分ながら自分の闇性に驚いたから。でもね、いっちゃんに愚痴こぼしてる内に、私を押さえつけている封印の蓋の役目を担ってる憎悪が薄らいできたから。」
「薄らいできたから、って、それなら今現在この肉体を制御する意識があんたになるべきでしょ?わ、私はここに、身体を確かに制御してる・・のに?」
「うふ♪今のシチュエーションはね、現実であって現実でない部分があるから、気で身体をねりあげちゃうことも可♪それより、ほら、早く殺っちゃえば?」
「殺っちゃえば、って、あなた、光の私でしょ?」
「そうよ♪ダーク麻依ちゃん♪ほら、あなたの昔年の恨み辛みを光(闇の?)の刃に詰め込んで、思いっきり苦しませて・・といってもちっとやそっとの激痛なんかいっちゃんにとってはへでもないわよ?(ということもないだろうけど、受け止めるべきだとにっこり笑って痛いそぶりもみせずに受け入れるわ)ほら、早く!」
「だから、普通、止めるでしょ?私の方が心の闇の部分なのよ?あ、あんたは良心の方でしょ?」
「そ♪純粋に光の宗主を目指す、私は光の巫女。ほら、だから早く!だって差がありすぎるのよ、今の状態じゃ。このままだと私は闇のいっちゃんを滅ぼしてしまいかねないのよ。だから、早急にLVアップが必要よ。あの世界に行けばそれができるみたいだから、恨み辛みの分千々に切り刻んで、肉体から離れてもまだ引きずる激痛を受けさせて、霊界へ飛ばしなさい。その絶望の世界へ転生するまで死の場面を繰り返さなければならないんだから、何回目でそこを引き当てるかわからないでしょ?うだうだ文句言ってる時間が欲しいから、さっさと始末しなさいってば!」
「・・・・・・」
「大丈夫♪いっちゃんだったらその必要性も重々理解してるから、そのための苦行よ、覚悟してまな板の鯉気分でしょうから。そうね、「麻依に殺られるのなら願ったりだ。」と、もしも口が開けるのなら言うんじゃないかしら?」
にっこりと笑った麻依の表情から冗談ではないことが確かに感じられる。
「言えなくても思ってはいるでしょうね。だから、ほら、早く!私もそれを見届けて、次のステップ踏まなきゃならないんだから。」
「ま・・麻依?」
それまで一休にあれこれと一人話を聞かせていた麻依は、後からひょっこり顔を出したもう一人の自分自身の言葉が信じられず、呆然として見つめていた。
そして、一休は、本当はそっちが闇なんじゃないかと思えるほどの過激なセリフを口にする後出の麻依に、ポーカーフェイスのまま心の中でその通りだと頷く。必要ならばそうするべきだ。どれほどの苦痛が待っていようと。
しばらくあっけにとられた表情でもう一人の自分自身を麻依は棒立ちになったまま見つめていた。
そして、それは瞬時の交代だった。もう一人の麻依が消えると同時に、前からそこにいた麻依はにっこりと笑顔を一休にみせた。
「ありがとう・・と言うべきよね。私のダーク性が昇華されちゃったわ。さすがいっちゃん。全てをお見通し。で・・・・・お礼をするわね。大丈夫、ダーク麻依にはああいったけど、あれは、彼女に本当にあなたにそこまでする勇気があるのかどうか、そこまでの憎しみがあるのかどうかを自分自身に問いたださせる為だったから。私はあなたに苦痛など与えられないわ。一瞬で終わる。そして・・・・目的の世界も分かっているの。その世界への道は夢馬が作ってくれたトンネルで行けるわ。魂だけ飛べばそれでいいの。抜け殻は、そのうち停止するわ。夢から覚めずそのまま。それじゃ、物足りないって言わないでね?彼の地で肉体を受けてから・・ううん、その地で最も弱く、その中でも一番弱い生物の中にあなたを送り込んであげるから、悪夢はそれから始まるわ。夢でない悪夢がその時から始まる。彼らが隠れ住んでいるそこは、1歩歩けば肉が避け血がにじみ出るようなところ。そんな危険地帯に身を寄せることが彼らにとっては精一杯身を守ることだったの。そして同族でも荒んだその心はかばい合うことを知らないわ。殺し合いが世の常のそこで、見事這い上がって頂上に、闇王になることを・・祈ってるわね。・・・・・さようなら、いっちゃん。」
まばゆい光が麻依の全身から出、あっというまに部屋一杯になったその光が消滅すると、そこに一休の姿はなかった。
「いいのか?あの世界は闇が産まれ出でる世界だぞ?」
ファスの声に、ぼんやりと立ちつくしていた麻依ははっとして後ろを振り返った。
「ファス、また眠ってくれたの?」
「ああ。心配になったものでな。」
「必要だから、そうした。そして彼も、必要だから黙って身を任してくれた。それだけよ。」
「・・・そうか・・・・・(お主たちは、なんという道を選んだのだ?・・・まったくもって・・この二人ならやりそうな事だが・・しかし・・・・)」
言いたいことはあったが、ファスはそれを飲み込み、麻依に乗れと背を向ける。
「心の迷宮に亀裂が走りはじめている。おそらく死にかかっている者の中に他の世界の魂を送り込むなどという無茶をしたからだろう。そこからなら現実の世界に戻れるやもしれぬ。ただし、出たところがお主が一休を飛ばした闇の世界かもしれないが?」
「望むところよ!もしもそうだったら・・・・私は私の光エナジーで闇を切り、そこから出てみせるわ。」
「いいのか?そのエナジーを受け、転生したばかりの一休が消滅してしまうことも考えられるが?」
「そうしたらもう一度、適度な肉体を選んで彼の魂を送り込んでから、その世界から出るから構わないわ。結構それを期待してるかもしれないし?」
「期待・・してる?」
「少しでも闇属性があるとね、光のエナジーって耐えきれないほどの激痛を産むの。」
「・・・麻依・・・・・お主が闇に下った方がいいんじゃないか?」
「あは♪だからその反対を目指してるんじゃない♪大丈夫よ、ただ冷静に分析結果を言ってるだけよ。言葉の根底に恨みや怒りなどの感情はないわ。」
「ふむ。」
「いいから行きましょ♪みんなが心配だわ♪それに必要不可欠なことは成すされるべきなの。それは彼もよ??く分かってるわ。(死刑執行する私の方がためらってて、彼は・・・平然として成されるのを待ってる・・・・必要な過程だからそこに迷いはないわ。)」
「あ、ああ・・・」
理解しがたい感じを受けつつも、ファスは再び麻依を乗せて走り始めた。
登場予定だったスーパーサイヤ人とピッコロ大魔王麻依バージョンは?(激謎
書き直しありかも?そう思いつつ面倒で書き直さないかも?/-_-;;